過去にもレポートしましたが、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドに買収話が持ち上がっています。現在の持ち主はNFLタンパベイ・バッカニアーズのオーナーでもある、グレイザー氏。一家で多角的なビジネスを行っており、スポーツにおけるビジネスもその一つです。

しかし、彼らは利益を真っ先に追求する手口が多く(ビジネスなのでそれは当然と言えば当然ですが)、スポーツビジネスではやや露骨すぎるのか、多くのファンにその手法を野次られる結果となりました。今回はその手法について見てみたいと思います。

投資した側が儲かるという部分においては、ビジネスとしては真っ当ですが、これがどうもスポーツと絡み合うと話がこじれます。ファンは儲かったならその儲けをチームに使ってほしいと思う一面があるからです。

1995年にバッカニアーズの初代オーナーであったカルバーハウス氏が肺がんで死去すると、チームの財政状態が悪化していることが発覚しました。これに目をつけた“全くアメリカン・フットボールに詳しくない”マルコム・グレイザー氏(現オーナーの父)が1億9200万ドル(当時のレートで約192億9000万円)でチームを買収。ファンの間では「この時から墓場への行進は始まっていた」とも言われていたようですが、買収してすぐに新スタジアム建設の必要性を訴えました。

しかし、これには裏がありました。建設費用の半分はグレイザー家が負担すると提案していたので、ファンを含めた関係者はとても協力的なプランに感じたようです。残り半分については税金でカバーできないかと行政に持ち掛けました。そして、この要求が通らないのであればスタジアムを州の外に移すという条件が付帯されたのです。地元行政にとってみれば脅迫まがいの要求に感じたことでしょう。

結果的に「コミュニティー投資税」と呼ばれる税金を強制的に加えることで話がまとまりました。この先30年間で計上されるおよそ27億ドル(当時のレートで約3000億円)もの税金を新たなスタジアム建設費にあてることを意味します。ところがよくよく考えてみると、この税金は全てグレイザー一家の計画によるもの。マルコム・グレイザー氏は一時的に建設費用の半分を支払うものの、そのスタジアムの売り上げの一部を権利として手に入れています。つまり、1円たりとも支払うことなく新スタジアムを手にいれ、安価で引き取ったクラブの価値を大きく上げたことになります(チームは買収金額の5倍以上の価値に跳ね上がったとも言われておりましたが、後々これが真の目的だったのかとファンは落胆したと言われています。)。

その後、買収したマンチェスターUでも、一見するととても良い提案のように見えますが、裏では自分たち一家にとって大きな利益となるような仕組みが仕掛けられておりました。2003年以降水面下でチームの株を買い集めていました。最終的には金融機関の融資を利用してチームを買収。その借りた資金をチームに負わせる、つまりチームの売り上げでその借金を返済していく手法をとったと言われています。自分たちは1円も支払うことなくマンチェスターUを手中に収め、今日、大きな額で売ろうとしているということになります。

そのマンUをここにきて手放すことを公表したグレイザー一家ですが、売却額を高く設定していることが判明すると、どこまで金にがめついのかとますますファンの怒りを買っている状態です。

徐々に買収完了に近づいている雰囲気を感じていたところで、現地の速報で候補者の1人が撤退を表明したと報じられました。撤退を表明したのはカタール人投資家のシェイク・ジャシム・ビン・ハマド・アル・タニ氏。カタール・イスラム銀行の会長を務める同氏が撤退を表明したことにより、残りの候補者は英化学大手イネオス創業者のジム・ラトクリフ氏となりました。ラトクリフ氏の最初の提示額に対してもグレイザー一家はすんなりと首は縦に振りませんでした。ここでも「本当にどこまで金にがめついのか」という声が聞こえてはきますが、ラドクリフ氏も少数株式取得という手法に切り替えて提案中と報道がなされており、しばらく時間はかかりそうです。

最大のライバルであるマンチェスターCが悲願の欧州チャンピオンズリーグ優勝を達成するなど、今となっては立場が逆転してしまったマンチェスター勢。またどこかでユナイテッドが覇権を取り戻す日が来るのでしょうか。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)