冬の風物詩であるサッカーの高校選手権が今年も開催されています。J1のセレッソ大阪に内定している長崎総合科学大付のFW安藤瑞季(3年)ら、高体連の将来有望な選手たちがしのぎを削っています。

 奈良の強豪である一条は公立校の雄。2年連続8回目の出場で3回戦まで勝ち進みましたが、初のベスト8を目前にして米子北(鳥取)に0-3で敗れ、姿を消しました。

 前田久監督は試合後、現状について話しました。「奈良の選手は芝刈り状態です」。県内の有力選手は大半が近隣の大阪などの強豪校に引き抜かれていることを示唆しました。入学する選手の多くは「中学の強豪校の10人目、11人目の選手」だといいます。

 私立校は学費の負担だけでなく、早い時期で入学が確定すること、入学前の2月あたりから人工芝のピッチで練習に参加できることなど、サッカーで勝負する学生にはいいことずくめ。対して一条は3月の受験の合否が出るまで入学できるか分からず、奈良県選抜に選ばれるような選手は他県や、県内のライバル私立校に流れる現状だそうです。それでも、前田監督の表情に不満の色はありません。昨春はドイツへ遠征し「長時間の練習がなくても寮がなくても、強いチームはある」と確信しました。

 本年度のチームは9月に選手だけで約3週間、部活動を任せてみました。うまくいかず「俺に(先導を)やらせていいのか」とハッパをかけても、むしろすんなり受け入れられてスムーズにいったといいます。悪く言えば主体性不足、よく言えば素直。「変なチームだった」と苦笑いしながらも、「それでも(米子北戦で)ゴールに迫るシーンはいくつかあった。強い相手に向かう姿勢は後輩が引き継ぐでしょう」と、悔しがる選手たちを遠めに見つめました。決して恵まれた環境ではない中、ひたむきに1つずつ勝利を重ねる姿。澄んだ緑のユニホームはすでに選手権の常連ですが、いつか高校サッカー界で公立の星になるのではと感じます。【岡崎悠利】


 ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり)1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材し、現在はサッカーで主に浦和、アンダー世代を担当。