「僕の究極の理想は27球で試合を終わらせることです」。西武時代のパドレス牧田和久投手(33)から伝え聞いた言葉だ。打たせて取る。「三振を取るより四球で歩かせるより、1球で打者を打ち取ったほうが効率的だと思いませんか。ストライクゾーンに投げれば打者は振りますよね」。すべての打者を初球で仕留めると27球になる。オンリーワンなサブマリン投手の1球にかける勝負哲学が伝わってきた。彼は今、「究極の理想」を追求し、夢をかなえ、メジャーリーグの舞台に立った。

 昨年11月から15年ぶりにベガルタ仙台の担当となった。前回は渡辺晋監督(44)がまだ現役で活躍していたころだったので何かの縁を感じている。その渡辺監督に2月の宮崎・延岡キャンプでインタビューした際、久々にあのフレーズを耳にした。

 渡辺監督 僕の究極の理想は90分間相手のハーフコートで試合をすることです。ボールを取られたら取り返すを繰り返す。ただ、サッカーは理想とは違うところで勝負が決まったりしますよね。それができないところの対処の仕方が大切になってくる。攻撃的といっても仙台って守備のところは外してないよね、戦う姿勢はぶれてないよねって、試合を見て議論を巻き起こしてもらいたいです。

 J1チームのクラブ人件費で最下位レベルの仙台が、開幕からリーグ戦5試合負けなし(3勝2分け)と浦和、川崎Fなどのビッグクラブを上回り2位に位置する。現場と強化部の創意工夫がばかりが際だつのだが、フロントとしては抜群の費用対効果を発揮しているということになるのだろうか。就任5年目で1度も落とさずにJ1に残留し続けているのは、「究極の理想」があってこそなのだ。

 普通に考えれば、敵陣で90分プレーすることなど不可能だ。ただ、それができないとき、いかに対応していくかがチーム戦術として落とし込まれている。ベガルタの基本戦術のキーワードとして「いい立ち位置をとる」というものがある。

 渡辺監督 1個のボールに対して10人が適正な位置にいないとボールは動かないし前進できない。だれか1人がサボったり間違った場所にいたり、人が重なったりしたら、ボールを前に運べないんです。相手のゴールを陥れることを考えれば、相手の最終ラインの背後を破ること。それができないとき、いい立ち位置を取って相手をずらしていこうぜっていうのが、我々のサッカーです。当初はボールを動かすことでいっぱいいっぱいで、苦し紛れのロングボールを蹴ったり、カウンターを食らったりしたが、意図的な長いパスが増えてきた。縦パスを入れる場所を10メートル前進させることを徹底してセカンドボールも拾えるようになった。前線で待ち受ける人間がどういうふうに走れば効果的なのか、約束事がより明確になってきたと感じています。

 W杯イヤーならではの15連戦という過密日程が、3月31日からいよいよ始まった。仙台は初戦で初顔合わせの長崎戦を1-0で下し、白星スタートとなった。今季の目標はリーグ戦5位以内とカップ戦ファイナリスト。シーズン前に恒例となった本紙のサッカー担当記者たちによる順位予想で、仙台を降格圏に予想した記者は8人。「究極の理想」で大方の予想を覆し、目標達成することを期待したい。

 ◆下田雄一(しもだ・ゆういち) 1969年(昭43)3月19日、東京都生まれ。Jリーグが発足した92年に入社し写真部に配属。スポーツではアトランタ、長野、シドニー五輪などを撮影取材。17年4月に2度目の東北総局配属となり11月から仙台を担当。

ベンチに座る仙台渡辺晋監督(2018年3月3日撮影)
ベンチに座る仙台渡辺晋監督(2018年3月3日撮影)