華やかな桜の木は、いろいろな花びらが構成している。

 昨季、ルヴァン杯と天皇杯の2冠を制したセレッソ(スペイン語で桜)大阪も、多種多様な花びらが結束してきれいな大輪の花となった。さらなる躍進を期待される今季。咲き誇ろうとするひとつの花びらを取り上げたい。

 幼少期からC大阪で育ったアカデミー出身者が中核をなすクラブにあって、昨季からグイグイと存在感を高めてきた1人がMF福満貴貴(26)だ。昨季はいわゆるカップ戦要員で、J1リーグ戦はすべて途中出場のわずか5試合。それが今季は、先発3試合を含む6試合の出場で、4月11日の川崎フロンターレ戦ではJ1リーグ戦初ゴールを決めた。今やレギュラーを狙えるところまで、ポジションを上げている。

 「昨年よりは自信を持ってやっているし、楽しい」という。技術力の高い、きらびやかなスター選手が多い中、福満の位置付けは「雑草」か。鹿児島の高校を卒業後、専門学校の九州総合スポーツカレッジのサッカー部でプレー。卒業後は、JFLのヴェルスパ大分でプレーも、日中はキヤノンの一眼レフカメラの部品を製造する工場に勤務し、夜に練習の日々だった。

 その経験が今に生きている。「あの時に戻りたくない」。福満の売りは常にDFラインの裏を狙い、ピッチを走り回る走力と根性。飛び抜けた技術、身体能力はない。ただ「苦しかった」あの時に戻りたくない思いが、もうひと頑張りを生む。「サッカーだけできる今は本当に幸せ。人より走れれば、それが武器になる。どんな状況でも走れる選手。人より1歩でも多く。運動量と常に全力を心がけてます」。プロのサッカー選手として、恵まれた生活を失う怖さは人一倍理解できる。

 昨季はクラブ悲願のタイトル、2冠獲得に貢献したが、いずれも決勝のピッチ上にその姿はなかった。「優勝はしたけど、個人的には悔しい優勝。決勝のピッチに立てなかったのは、自分の力不足。そこに立つことができれば、また違う景色が見えてくる。今シーズンは信頼を得て、レギュラーをとる。そこしか見ていません」。

 プロとしてレノファ山口(現J2)へ移籍する際、交際していた女性と結婚した。もう後戻りはしない、できない決意も、そこには秘めていた。2人の間には今、2歳と6カ月の男の子がいる。「サッカーをやるか分からないけど、ボールを扱うのはうまいんですよ」。そんな愛してやまない家族のためにも、のし上がってつかんだ今の生活を失うわけにはいかない。さらなる高みを目指す福満は、今季のセレッソのキーマンにもなっている。

 ◆実藤健一(さねふじ・けんいち) 1968年(昭43)3月6日、長崎市生まれ。若貴ブームの相撲、ボクシングでは辰吉、徳山、亀田3兄弟らを担当し、星野阪神でも03年優勝を担当。その後いろいろをへて昨春からスポーツ記者復帰。いきなりC大阪が2冠と自称「もってる男」。