全国高校サッカー選手権に出場する福島県代表の尚志が3日、前回覇者の前橋育英(群馬)を2-1で下す大金星を挙げた。東日本大震災が発生した11年以来、7大会ぶりとなるベスト4進出へ向け弾みをつけた。東北勢では青森山田、秋田商も勝ち上がり、高校サッカーでも高校野球の「金農フィーバー」をほうふつさせる「みちのく旋風」がわき起こっている。

入社以来、元日の天皇杯決勝を含め、選手権を正月休み返上で撮影取材してきた。乾いた冷たい北風にさらされながら、残酷で不条理な結末を何度も目撃してきた。

PK戦だ。競技方法には「1回戦から準々決勝までの試合時間は80分(40分ハーフ)とし、ハーフタイムのインターバル(前半終了後から後半開始まで)は原則として10分間とする。勝敗の決定しない時は、ペナルティーキック方式により次回戦に進出するチームを決定する」とある。白黒がつかなかったら即PK戦に突入。1会場2試合ともPK決着となることも珍しくはない。敗退して号泣する選手にレンズを向けながら「いいサッカーをして相手を圧倒していたのにね」。「これじゃ全国高校PK選手権だな」とやるせない気持ちになる。

そんな過酷な大会だからこそ、人を引きつける魅力もあるのだろう。快進撃を続ける尚志の仲村浩二監督(45)もその魔力にとりつかれた1人だ。

現役時代は、関東大学リーグの順大で最強レフティーと呼ばれたJ1ジュビロ磐田名波浩監督(45)とポジション争いで火花を散らした。名門・習志野(千葉)出身で選手権に3年連続出場。清水商(現清水桜が丘=静岡)出身の名波監督とは、高校選抜時代からライバル関係でしのぎを削ってきた。名波監督が歩んだように、プロを目指しW杯出場という夢を追いかける選択肢もあったが、指導者の道を選んだ。

仲村監督 プロになりたいという夢もありましたが、一番長くサッカーに携われるのは指導者になることだと思ったんです。高校の恩師である本田先生(現流通経大柏の本田裕一郎監督=71)にもあこがれを持っていましたので。サッカーが好きというか、何よりも選手権が大好きなんです。

5年連続10回目の出場を果たし、PK戦で酸いも甘いも味わっていた。PK決着となったゲームは6試合に及ぶ。うち4試合では辛酸をなめた。その苦い経験を生かし今季は「PKも含めてトータルで勝つこと」をテーマに掲げ、チーム作りを行ってきた。1回戦の神村学園(鹿児島)戦では、その真価が試されるシーンがいきなり訪れた。1-0で迎えた後半ロスタイム。勝利は目前だったが、土壇場で直接FKを決められ試合は振り出しに。この直後、仲村監督は迷わず動いた。「練習でも5人蹴って3人は止めている。PK戦になっても必ず勝てる準備はしてきた。同点になったらすぐに投入すると決めていました」。残りワンプレーを残したところで、正守護神のGK森本涼太(3年)に代わり、PK職人のGK鈴木康洋(2年)を投入。フィールドプレーヤーにPK戦勝負のシグナルを送った。その采配がズバリ的中し、鈴木が2人目のシュートを右手で弾き、初戦突破を果たした。PK戦を冬の青春のドラマで終わらせない勝負哲学が、快進撃の原動力となっている。【下田雄一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆下田雄一(しもだ・ゆういち) 1969年(昭44)3月19日、東京都生まれ。Jリーグが発足した92年に入社し写真部に配属。スポーツではアトランタ、長野、シドニー五輪などを撮影取材。17年4月に2度目の東北総局配属となり、同11月から仙台を担当。