視覚障がいを持つ元Jリーガーが、フットサルで再起に挑む。Fリーグ2部・デウソン神戸に所属するFP松本光平(33)。

20年5月、トレーニング中の事故で両目を負傷し、右目は失明。左目もかすかに見える程度だ。それでもサッカーのクラブワールドカップ(W杯)への出場の夢をあきらめきれず、懸命にリハビリに励み、リハビリ仲間の縁で神戸に加入した。

既に2試合を終え、松本は2戦連続で出場。チームも1勝1敗とまずまずのスタートを切った。獲得してくれたクラブへの感謝の思いを背負い、ピッチ内外での貢献を誓っている。

15年1月3日、日本代表との練習試合前日に、試合会場でトレーニングをするオークランドシティの松本光平(右)
15年1月3日、日本代表との練習試合前日に、試合会場でトレーニングをするオークランドシティの松本光平(右)

5月24日、東京・JFAハウスで行われたFリーグのキックオフカンファレンスで、松本は囲み取材の場に白のつえを手に現れた。

「段差と階段だけは怖いんです。フットサルやサッカーのピッチに段差階段はないのでまったく問題はない。今日はいらないと言ったんですけど、壇上に段差があるので。監督指示です」と笑った。

松本は異色の経歴の持ち主だ。中学時代はセレッソ大阪の下部組織、高校時代はガンバ大阪の下部組織でプレーしている。C大阪時代の同期は名古屋FW柿谷曜一朗。1歳下に神戸MF山口蛍がおり、G大阪では1歳上にMF倉田秋がいた。

「彼らが日本代表になって世界で活躍していたのを見ていたので。自分も負けてられないというか」

松本もJ2ジェフユナイテッド千葉、ヴォルティス徳島を経て海外へ渡り、主にニュージーランドでプレーを続けた。

しかしコロナ禍の20年5月。ニュージーランドの寮でのトレーニング中、チューブの留め金が外れ、金具が右目に刺さり、チューブが左目を直撃した。現地の病院では「右目を摘出」と言われた。

何とかして目は残したい。急きょ日本の病院を探し帰国した。倉田らG大阪時代の仲間が、医療費の支援を募ってくれたことも大きかった。日本で手術を受け、右目は残すことができたが失明。左目もぼんやり見えるが視力は0・01。目の奥の黄斑部に穴があいているため、眼鏡などでの矯正は無理だった。

15年1月4日、日本対オークランド 後半、松本光平(左)のチェックを受ける武藤嘉紀
15年1月4日、日本対オークランド 後半、松本光平(左)のチェックを受ける武藤嘉紀

通常なら、ここで競技人生をあきらめるところだが、松本は違った。

「僕は右サイドバック。左目が残っていたらいける。半年後のクラブW杯に出るために、半年で治そう」

左目だけのプレーは思った以上に苦労した。

「最初はまったく止めたり蹴ったり出来なくて。浮き球に関しては、来るのが怖くて、目前にボールが来てかわしてしまっていた」

だが、リハビリを続けるうちに、ボールの扱いに慣れてきた。広いサッカーのピッチで大まかなプレーはできるようになった。だが、対人や狭い局面でのプレーは相手との距離感がつかめず、相手とぶつかってけがをすることも多くなった。

「細かいプレー面を補いたい」と挑んだのが、弱視の視覚障がい者がプレーするロービジョンフットサル。そこで日本代表に選ばれるまでになった。

ロービジョンフットサルでの活動を通し、目が不自由な子供たちと触れ合う機会も現役へのこだわりを加速させた。

「いろんな子供たちも見てきて。目が見えないことで、運動制限をされている子供がたくさんいて。そういった子供たちに、目が見えなくてもこういった舞台で活躍できることを見せたい。自分が現役を続けることで、そういった子供たちの道になればと思っている」

15年1月3日、日本代表との練習試合前日に、試合会場でトレーニングをするオークランドシティの松本光平
15年1月3日、日本代表との練習試合前日に、試合会場でトレーニングをするオークランドシティの松本光平

松本はいずれはサッカーに復帰する強い意志を持ち、リハビリ期間中もニュージーランド1部オークランドに映像を送り「ここまでプレーできるから自分のことを獲得してくれ」と売り込んでいた。オークランドも籍を置くことを認めてくれ、正式にはオークランド所属。だが、コロナ禍の入国制限で、ニュージーランドには渡れないまま時が過ぎていた。

そんな時、リハビリを手助けしてくれた仲間が「これだけ動けるんだったが、デウソン(神戸)で出来ると思うからどうですか?」と声を掛けてくれた。

オークランドに籍はあるが、フットサルクラブとの契約は認められており、オークランドの許可を得た上で、今季は神戸でプレーすることが決まった。

チームメートやスタッフも松本を支えてくれる。チーム活動の連絡はメールだが、文字を打つことや見ることができない松本のために、電話や音声メッセージで連絡をくれている。

「チームの監督、仲間に恵まれていいチームに入れたので。しっかりピッチ内外で結果をだして絶対にやれるところを見せたいですね。今はフットサルをやっているので目の前のことに全力で頑張るつもりで、細かい動きを習得して、またサッカーにいつか生かせるようにしたい。サッカーに戻るつもりでいてます」

松本の挑戦はスタートしたばかりだ。【岩田千代巳】