2年ぶり16回目出場の徳島市立(徳島)が「阿波のメッシ」の一撃で、昨年準Vの流通経大柏(千葉)を慌てさせた。

初戦敗退に終わったものの、後半から出場したFW岡健太(3年)が個人技で先制ゴールを決めた。同16分、クリアボールをハーフウエー付近で拾うと、「加速がついたら多分、徳島で一番速い」と自負する50メートル走5秒9の快足を飛ばし、30メートル近くをドリブル突破。鹿島アントラーズに入団する関川郁万(3年)らDF3人を次々に抜き去り、「後ろ3枚だったら行けると思った。ちょっと遠かったけど、トーキック気味に当たったらコースもいい感じに飛んでくれた」と、ペナルティーエリア手前からゴールを突き刺した。鮮やかな妙技に、地元千葉の流通経大柏応援団を黙らせた。

それでも岡は「今日のダッシュは8割程度」と言うほど、コンディションは絶不調。大会直前の昨年12月20日、自転車ごと突き飛ばされる交通事故に遭った。奇跡的に骨折等の入院は免れたが、下半身の打撲により年末2日間は静養に努め、元日練習で突貫調整。この日は痛み止めの座薬を入れて出場した。小柄な168センチが驚きのスプリント力を発揮し、その後もたびたび相手ゴール前を脅かした。流通経大柏は慌ててマンマークに切り替えたほどで、本田裕一郎監督(71)も「あのスピードと小回りは恐ろしい武器。ケガだと聞いていたから、ウソをつかれたのかと(笑い)。素晴らしい選手でした」と舌を巻いた。

試合後の「孝行息子」は晴れやかな笑顔だった。岡は軽妙な阿波弁で取材陣の笑いを誘いながら、「母さんが見に来ておるけん、1点取って恩返ししたいなぁと思ったけん。勝てば最高の恩返しだったけど、ゴールすると約束していたけん、良かったです」。母小百合(40)の女手一つで育ち、妹百々花さんも鳴門渦潮(徳島)の2年生MFとして、3日に開幕する全日本高校女子サッカー選手権に出場する。兄は「きょうだい4人おるけん、お金はかけらられない」と、1年履き続けたボロボロのスパイクでプレーした。「見せるの恥ずかしい。ヤバイでしょ、これ」と照れ笑いだったが、実は母から赤のスパイクをプレゼントされたが、まだ足になじまず使用を断念した。

そのスパイクに履き替える夢の続きは、春からの新しいステージに向かう。卒業後は産業能率大(神奈川県リーグ)に進む。「母さんに恩返しできるのはサッカーしかないと思ったけん、プロになりたい。プロになってもっと恩返ししたい。4年間諦めんと、頑張ってプロになるだけです」。自宅のある徳島・阿南市から往復4時間半かけて高校に通った不屈の魂で、夢をつかむ。