<明治安田生命J1:鳥栖-神戸>◇第24節◇23日◇駅スタ

サガン鳥栖の元スペイン代表FWフェルナンドトーレス(35)が現役生活に別れを告げた。

ハリウッドスター顔負けだ。さっそうと軽やかな足取りで、目の前を通り過ぎていった。オーラが違った。これが世界のトップを渡り歩いてきた人が醸し出す空気感なのか。私も記者人生、今年で28年目。つたない取材経験ながら、五輪も取材した経験から世界のアスリートにもふれあったことはある。しかし、ここまでの「重さ」は初めて味わった。

サガン鳥栖FWフェルナンドトーレスのことだ。「神の子」と言われ、スペインをW杯優勝に導いたストライカー。日本に来ることすら信じられなかったのに、佐賀の鳥栖に来るとは…。先日、佐賀県庁で行われたスポーツ大使就任式で、フェルナンドトーレスを取材した。写真の仕事もあり、会場の一番前で座っていて、自分の目の前を「スター」が通った。黒のポロシャツに黒のパンツ、白い靴。飾る必要のないシルエットには気品さえ感じられた。

言葉にも「重み」を感じられた。山口祥義・佐賀県知事から「佐賀の子どもたちに魂を入れて下さい」と頼まれたことについて質問された時だった。

「佐賀にきて1年。学校に訪問させてもらい、子供らに話をする機会があった。『希望を持ってそれを実現する努力をしないといけない』と伝えている。日本では失敗するのが怖いという文化があるのを感じている。やってみないと分からない。失敗してもやってみるのが大事だ。先生にも失敗を批判するようなことをやめれば、子供らはもっと努力をするでしょうと言いました」

世界を極めた男の言葉だ。わずか1年だが、日本の「弱点」を見抜いている。日本のサッカー界でも、本物のストライカーは登場していないように思う。パスは出せるがゴールは取れない。失敗を恐れている文化が多少なりとも影響しているのかもしれない。彼の言葉は日本人の自分の胸に突き刺さった。

わずか1年だが、世界のお手本が鳥栖でプレーした事実は残る。今から24年前、鳥栖フューチャーズだったころ担当だったが、アフリカのカメルーンの英雄、DFステファン・タタウがプレーしていた。W杯8強のチームの主将だった。一緒に食事したこともある。サインももらった。「ベストフレンド」と書いてある。やはり世界を極める選手はふところが深く、目の付けどころが違う。鳥栖のユニホームを着て見せたフェルナンドトーレスの「失敗を恐れない」プレーでゴールを狙う姿は、永遠に子供らの胸に刻み込まれる。【浦田由紀夫】