静岡学園が0-2のビハインドから3点を返して逆転勝ちし、24大会ぶり2度目の優勝を飾った。

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井田勝通前監督(77=現総監督)が24年ごしで宙に舞った。95年度は鹿児島実に2-0から追いつかれての両校優勝。選手たちは笑顔どころか敗者のように涙に暮れ、胴上げはなし。今大会は3度、埼玉スタジアムの空に舞い「ガガーリンの気分だ。地球は青かったよ」と照れを隠した。

72年から指揮を執り、ブラジルのサッカーを参考に個人技主体のスタイルを確立した。教員以外が指導する当時では異例の「プロ監督」だったが、その道のりは決して順風満帆ではなかった。08年限りで退任。学校から突如言い渡されたのが、契約打ち切りだった。定員割れが危ぶまれていた中で経営方針を変えたためだ。学校の意向は「勉強の静学にしていく」。指導者も原則教員に任せる方針に切り替えた。

技術を磨くための朝練習も廃止。特待生制度も厳格化され、有力選手が集まりにくい状況になった。だが、最大の危機をOBの川口監督が救った。96年からコーチを務めていた同監督は「井田さんのサッカーに最も長く触れてきたのは自分。僕にはそれを継ぐ責任がある」。逆風の中で引き受けた。部員も一時は現在の半分以下の100人弱となった。それでも、ブラジル留学経験もある同監督は「井田イズム」を踏襲しながら、自身の色も付け加えてチームを作ってきた。攻撃だけでなく、守備も徹底する。うまくて、強い新たなスタイルを構築した。

今大会も準決勝まで無失点と足先だけではない強さも見せつけた。同校は中等部も含めてスタッフは全員がOB。一枚岩となって育成し、再び全国の頂点に返り咲いた。井田前監督は現在、地元の小学生チームを指導。高校の指導からは完全に離れているが、77歳になった今でも公式戦はベンチに入り、間近で選手たちの活躍を見守っている。「修が良いチームを作ってくれた。最高の恩返しだよ」。サングラスの奥の目は笑っていた。【古地真隆】