<箱根を読み解く7つのカギ:(5)裏方のチカラ>

 日々闘っているのは、選手だけじゃない。チーム運営に始まり、練習のサポート、選手の状態チェック、さらにはメディア対応まで、仕事は多岐にわたる。チームになくてはならない、まさしく縁の下の力持ち。それは学生マネジャーである。例えば今季、長野・佐久長聖高から着任した東海大・両角監督は裏方の存在の大きさを実感する1人。「マネジャーが頼りになる存在でとても助けられている」。こう名指しされたのは、吉川元主務(4年)。

 和歌山・日高高時代は都大路(全国高校駅伝)を走った。箱根路を夢見て、父徹さんと同じ東海大へ進学。だが1年時にかかとを痛め、2年に上がる頃にはマネジャー転向を勧められた。「正直、最初はそんな気持ちになれなかった」と言うが、父の「自分で選択した道なら応援する」との言葉に背中を押された。

 チームを4つのグループに分けて各担当マネジャーをつけ、組織化することで強化を図った。北海道・紋別合宿を提案し、実現させた。吉川主務は「裏方になったことでいろんな人と話すことができ、学ぶことが多い。やっててよかった」。卒業後は故郷・和歌山で教員になる考えだったが、大学側からの要請で来春以降も大学職員、コーチとして残る。「今回はまずシード権(10位以内)。そして来年以降につながってくれれば」と話す。

 一方、昨季3冠の早大にも強力な裏方がいる。渡辺監督が「100年に1人」とまで表現するのが福島翔太主務(4年)だ。本来、最上級生がこなす主務を3年時から担う。中学時代、当時箱根で低迷する早大を「自分が強くしたい」と奮い立った。それ以来の「ワセダ愛」。埼玉・早大本庄高へ進学し、3000メートル障害で関東大会にも出場したが、渡辺監督は「社交性がすばらしく、すごく気が利く」。選手でなく、マネジャーとして目をつけた。

 選手の立場から渡辺監督に進言することもあれば、逆に選手に言うべき時ははっきり言う。監督と選手の橋渡し役。会社に例えるなら中間管理職といったところか。難しい立場にいながら周囲からの信頼は厚い。卒業後は商社に就職する福島主務は「陸上と関わる最後になるので、気持ちよく終わりたい。今年のワセダは勝負強いです」。表舞台を走る夢はかなわず、裏舞台を奔走し続ける。それでも思いは選手と同じだ。【佐藤隆志】

 ◆主務の仕事

 大会申し込み、合宿の手配、行事の予定管理、マスコミ対応、選手の状態チェック、監督補佐から雑用まで幅広い。10日に東京・恵比寿で開催された箱根駅伝記者発表会見には監督とともに出席し、チーム紹介のスピーチも担当した。ある主務は「スーツを着て大人と話す機会も多く、いろんなことが学べます」。実社会でも即戦力となる人材がそろう。