男子100メートル予選で、日本選手権2位の坂井隆一郎(24=大阪ガス)が、世界選手権(7月、米オレゴン州)の参加標準記録(10秒05)を突破して代表に内定した。日本歴代7位に並ぶ10秒02(追い風1・1メートル)をマーク。普段は社業も掛け持ちする“実業団スプリンター”が、男子短距離界の新星に名乗りを上げた。スタートに自信を持ち、400メートルリレーに選ばれた際は1走を熱望した。決勝は大事を取って棄権。デーデー・ブルーノ(22=セイコー)が優勝した。

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坂井は身長170センチ。歩幅は決して大きくないが、高回転のピッチ走法で中盤からさらに加速する。速報タイム10秒03を確認するまでは、祈るような思いだった。「追い風参考にならないでくれ、公認記録になれという気持ちでいっぱいだった」。正式タイムを確認し、両こぶしを握った。

男子短距離はプロとして競技生活を送る選手が多い中、実業団所属として平日は社業もこなす。家庭用営業を担う大阪ガスの関連会社で、人事総務部に所属。平日は午前中に3時間の社業をこなし、午後は3時間半ほど練習する。礼儀正しさは折り紙付き。大阪ガスの小坂田淳監督(48)が証言する。「『お疲れ』と声をかけると、ぴしっと足を止める。個人競技はイケイケどんどんの選手が多いけど、あんなに腰が低くて社会人じみたアスリートは僕も見たことがない」。

日本記録保持者の山縣亮太(セイコー)が右膝手術明けで調整中。桐生祥秀(日本生命)が今季の休養を明言。トップ選手の不在が目立つ中で、男子短距離陣には新星誕生を期待する声もあった。400メートルリレーでも有力候補。「スタートが得意なので1走を走りたい」とニヤリと笑った。

12歳だった09年8月。テレビで見たウサイン・ボルト(ジャマイカ)の世界記録9秒58が、鮮明な思い出として残っている。その舞台となった世界選手権に、自身も足を踏み入れる。シニアでは初の代表。「9秒台を目指して準決勝、決勝となるべく多くのラウンドを走りたい」と夢を膨らませた。【佐藤礼征】

◆坂井隆一郎◆ さかい・りゅういちろう。1998年3月14日、大阪府豊中市生まれ。中1で陸上競技を始める。大阪高から関大に進み、4年時に10秒12をマーク。20年4月に大阪ガス入社。日本選手権では予選で10秒24、準決勝で10秒15、決勝で10秒10を記録。171センチ、64キロ

◆男子100メートルの内定状況 日本選手権の予選で10秒04をマークし、決勝を制したサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)が内定済み。日本選手権2位の坂井が、今大会で内定第2号となった。同3位の柳田大輝(東洋大)は、参加標準記録を突破すれば代表に内定していたが、届かなかった。