8月に開催されたラグビー女子W杯アイルランド大会で日本代表を率いた斉藤聖奈(25=パールズ)主将の癒やしは、意外なものだった。

 世界ランキング14位の日本は「ベスト8」という目標を掲げて4大会15年ぶりのW杯に臨んだ。1次リーグから同4位のフランスや同5位のアイルランドなど強豪と対戦し、結果は11位に終わった。技術、体格、判断力など世界との差は歴然としていた。


W杯への意気込みを語る斉藤聖奈主将(中央)(2017年7月8日)
W杯への意気込みを語る斉藤聖奈主将(中央)(2017年7月8日)

■大体大2年で日本代表初選出

 17~33歳のサクラフィフティーンをまとめたのが斉藤だった。大阪府出身で小学1年の頃、幼なじみがラグビーを始めたことで一緒に地元のクラブチームに入った。同級生27人のうち、女子はたった2人。「男子とラグビーをするのが当たり前」という環境で小学6年では主将を務めた。中学ではバレーボール部に所属。大阪・四天王寺羽曳丘高では、平日は男子ラグビー部と練習に励み、休日は女子のクラブチームで汗を流した。ポジションはフッカーとプロップ。164センチ、70キロとFWとしては小柄だが、低い姿勢のタックルと力強いボールキャリー(ボール保持)でその名は全国に広がった。大体大2年の時、日本代表に初選出された。

 主将は小学6年の時以来、2度目だった。しかも、日本代表という重責を担った。「ONE TEAM」を合言葉に、これまでにない重圧と戦った

 「W杯での桜ジャージーは特別。もちろん、結果が全てだし、その過程もいかに重要かということも分かっていた。話がうまくないので伝わりにくいこともあったけど、その分、周りには大分助けられました」。

 言葉ではなく、自身のポジションであるFW1列目らしく背中でチームをけん引した。


斉藤聖奈主将が育てたミニトマト
斉藤聖奈主将が育てたミニトマト

■現在は三重県でひとり暮らし

 女性らしい一面もある。これまで実家の愛犬が癒やしだったが、現在は三重県でひとり暮らしのため新たな癒やしを求めてミニトマト栽培を始めた。今年4月、知人から「初心者でも育てやすい」と勧められて苗を購入。自宅で栽培して、約3カ月で1メートル超となり順調に育った。「どんどん大きくなって、成長が早いことにびっくりしました。ミニトマトの成長過程を見ながら、『ラグビーもこのぐらい急成長出来ればいいな』とも思っていました」。

 W杯直前の7月の国内強化合宿や大会期間中は所属チームの同僚に預けた。LINE(ライン)で定期的に画像が送られてきて、その成長ぶりを随時確認していた。初収穫を楽しみにしていたが“悲劇”が起きた。W杯の大会期間と収穫時期が重なり、口にすることが出来なかった。

 「本当に残念でした…。ただ、現地に行ってからはミニトマトを考える余裕すらなかった。気持ちがいっぱいいっぱいで、もっと心に余裕が必要だったのかもしれない」。

 ミニトマトの収穫は出来なかったが、W杯での収穫はあった。4年に1回の大舞台を主将として戦い抜いたことは大きく、この経験を生かして21年大会に臨む覚悟だ。

 「主将として未熟だったかもしれないけど、もし、次のチャンスがあればまた主将を務めたい。ベスト8は本当に夢ではない。あと4年で成熟した選手になって、再び、あの場に立ちたい」。

 軽い気持ちで始めたラグビーに夢中になり、13年が過ぎた。体を鍛えて大きくするため「着たい洋服が着られないのが悩み」と打ち明けるが、「今はラグビー最優先」とする。斉藤の次の戦いは始まっている。【峯岸佑樹】

応援メッセージを書いた小中学生らと記念撮影する女子選手たち(2017年7月8日)
応援メッセージを書いた小中学生らと記念撮影する女子選手たち(2017年7月8日)
W杯から帰国後、有水剛志HCに選手の手形メッセージを贈る斉藤聖奈主将(右)(2017年8月28日)
W杯から帰国後、有水剛志HCに選手の手形メッセージを贈る斉藤聖奈主将(右)(2017年8月28日)