女子でショートプログラム(SP)首位の紀平梨花(17=関大KFSC)が国際スケート連盟非公認ながらフリー自己最高の155・22点を記録し、合計229・20点で初優勝した。4回転サルコーは回避し、2本のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)などに成功。2位の樋口新葉(明大)に22・59点の大差をつけ、来年3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)代表を確定させた。ジュニアの川畑和愛(ともえ、N高東京)が3位、坂本花織(シスメックス)は6位で2連覇を逃した。

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回転数を上げた最後のスピンへ吸い寄せられるように、9348人の拍手が場内に響いた。紀平は音楽が止まると拳を首にあて、ほほえんだ。「去年は体も心もボロボロだった。悔しい思いをして、何とかして合わせたかった。全日本で初めて優勝できてすごくうれしい」。過去の苦い思い出で、女王の重みは増した。

準備に苦しんだ。午前練習では調子が上がらず、ホテルに戻っても4時間で一睡もできなかった。前戦のGPファイナルは睡眠に苦しんで4位。その経験から目を閉じても「ビクッとした」。演技前の6分間練習でアクセルに集中するため、4回転回避を決断。3回転半に2回転ではなく、3回転トーループをつける目標をやり遂げた。歓声の違いでライバルが苦しむ状況を察知したが「ちょっと動揺したけれど、集中して、諦めず」。3つのスピン、ステップも最高のレベル4と総合力の高さを示した。

わずか3年前は、この舞台が遠かった。3回転半を初めて成功させた16年、優勝争いが有力視された全日本ジュニア選手権で11位に沈んだ。フリー14位の大失速が響き、推薦出場を狙っていた全日本選手権に遠く及ばなかった。母実香さん(48)も涙を流すほどの喪失感が紀平家をつつんだ。

支えがなければ成り立たない日々の生活。土日は強化選手の練習拠点として時間が確保されている、愛知・中京大に通い詰めた。毎度、関西から母が運転し、愛車の総走行距離は3年で12万キロを超えた。担当の営業マンからは「うちの店で1、2番の距離ですよ」と驚かれた。シニアデビューした1年前はSP5位と出遅れ、総合2位で優勝を逃した。「助けてもらった人がたくさんいるので『やるしかない』と思った」。頂点へのこだわりを貫いた。

出場権をつかんだ世界選手権は昨季4位。左足首痛で構成から外した3回転ルッツ、4回転を残り3カ月で組み込み、勝負を挑む。

「そこにピークが合うように調整して、世界選手権で『これ以上いい演技がない』という演技をしたい」

リベンジの旅は、この先も続いていく。【松本航】