先のステージで伸びていく人材を-。

関西大学ラグビーで5連覇を達成した天理大や、トップチャレンジリーグ(トップリーグ2部相当)の豊田自動織機でコーチを務める山下大輔氏(40)が今春、新たな挑戦を始めた。両チームでの肩書は「S&Cコーチ」。選手の肉体強化やコンディショニング調整に携わるスペシャリストは4月、大阪で活動する中学生チーム「興国パフォーマンスアカデミー・ラグビースクール」を立ち上げた。

大きなきっかけは、7年前から指導する天理大だった。同大学卒業後に啓光学園(現常翔啓光学園)などでコーチを務め、戻った母校。小松節夫監督(57)の熱量、チーム作りは刺激に満ちあふれていた。以前には龍谷大のヘッドコーチ(HC)を5年間務めた。当時、同大学の教授らから学んだ専門知識も生かし、無名の高校出身者も多い天理大の選手を鍛え上げた。

「他の大学に比べて、メジャーな選手が多いわけじゃない。その中で勝つ。やっていることは間違いない」

18年度には全国大学選手権で準優勝。他大学と比べて大きいとはいえない天理大だが、地道なフィジカル強化は実り、関西で頭1つ抜けた存在になった。山下氏は高校、大学、社会人に加え、ラグビーアカデミーで小学生も指導。その上で、中学生年代における育成の大切さを痛感していた。

ある木曜日の午後7時。大阪・興国高の人工芝グラウンドに子どもたちの声が響いた。新型コロナウイルスの影響もあり、今春のスクール入会は3人。それでも周辺のラグビースクール、スキルアップを目指して中学校のラグビー部と掛け持ちする数十人のアカデミー生も集い、グラウンドは活気に満ちあふれていた。

山下氏の指導はラグビーの枠にとらわれない。時に器械運動や鉄棒も用い、運動能力を引き上げる。技術面はもちろんだが、考え方、人間性を伸ばすことにこだわる。教え子がのちに身を置く高校、大学、社会人での指導経験から「目標設定をしっかりすれば、それを1つずつクリアして、自信を持てる。そこに年齢は関係ないんです」。小学生からトップ選手までを教える強みが、ここに生きる。

「目標を全国大会の優勝に掲げるチームも多い。その中で先の世界で伸びるような、オンリーワンのチームにしていきたいんです」

スクールのFW西原健恵くん(中1)は小学校まで野球に打ち込み「自分の体に合っていると思った」とラグビーに転向した。FWの福山大雲くん(中1)は「山下さんには(豊田自動織機)シャトルズにも連れて行ってもらって、筋トレも教えてもらいました。どうすればパス、タックルがうまくなるか、よく分かります」。BK大跡杏くん(中1)も「ここで3年間やって、大阪府スクール選抜に選ばれたいです」と1期生の面々は目を輝かせた。

練習場所を提供する興国高の部員も指導を手伝い、この場所には年齢が異なった選手が集う。NTTドコモなどで活躍した同校の村田賢史ヘッドコーチ(HC)は「高校生も中学生を教える勉強。教えるって難しいですし、プレーの幅が広がります」と相乗効果を実感する。元トップリーガーの村田HCも山下氏らとタッグを組み、中学生に新しい引き出しを与えている。

中学生は可能性に満ちている。固定観念に縛られず、そのベクトルは未来へと向いている。【松本航】