歴史に残るロスタイム「18分5秒」の死闘が繰り広げられた。4大会ぶり7度目の優勝を目指す東福岡(福岡第1)が東海大大阪仰星(大阪第1)と21-21で引き分け、抽選の結果、8大会連続の4強を決めた。

花園での通算対戦成績4勝5敗で迎えた強豪対決は、後半48分5秒でノーサイド。第100回を迎えた大会の名勝負として刻まれた。5日の準決勝は東福岡-京都成章、大阪朝鮮高(大阪第2)-桐蔭学園(神奈川)の顔合わせとなった。

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そこには、敵も、味方もなかった。21-21。東海大大阪仰星のノックオンで、無観客の花園にノーサイドの笛が鳴った。時計は48分5秒。抱き合った選手の胸には充実感があった。東海大大阪仰星のSO近藤主将は「もっと戦いたい。もっとやりたい」と幸せをかみしめていた。試合終了で両チームが1つになる「ノーサイド」の空気を感じた。

「プレー中に、ノーサイドが先に来ているような気がしました。味方だけじゃなく(両校)30人で試合をしているようでした」

準決勝進出校を決める抽選。東福岡のロック永住主将は残った封筒を手に取った。「出場権あり」-。最後の冬が終わった近藤に歩み寄り、手を握った。「絶対、最後まで試合をするから応援してくれ!」。そう誓い、思いを背負った。

10度目の対戦は激闘だった。前半は7-7。東福岡は後半6、7分の連続トライで一気に主導権を握ったが、同21分に追いつかれた。後半30分を過ぎ、ロスタイムは2分と告げられた。

後半36分、東福岡が勝利を手にしたように思えた。相手防御ライン裏へキック。右隅に転がるボールを、途中出場のBK西端がインゴールで押さえた。抱き合って喜び、東海大大阪仰星はうなだれた。だが、主審は、西端がボールを拾う直前に相手を押した反則と判断。運命を左右する“幻のトライ”にも、東福岡プロップ本田は「レフェリーに従うだけ」と切り替えた。

2分後、東福岡は相手陣ゴール前15メートル、右中間の位置でペナルティーを獲得。PGで3点を刻めば勝利が決定的だったが、選んだのはスクラムだった。後半23分にPGを失敗。FW勝負に懸け、東海大大阪仰星が受け止めた。ロスタイム2分の経過後に、落球などミスが起きれば試合終了。両校の意地で精度の高いプレーが続き、決着をつけようと相手を尊敬して戦った。

東海大大阪仰星の湯浅大智監督(39)は、泣いた。

「感動です。感謝しかない。大学のロスタイムでも、そんなん聞いたことない。すごいです、あいつら」

東福岡の藤田雄一郎監督(48)は使命感を抱いた。

「100回大会でこんなことができて、すがすがしい。(2点差で3回戦を制した)石見智翠館さん、次は仰星さんの気持ちも背負ってやりたいです」

そこに、みんなが主役の戦いがあった。【松本航】

◆最強のライバル対決 花園での東福岡-東海大大阪仰星戦は東福岡の4勝5敗1分け。すべて準々決勝以降で激突。初対戦の83回大会(03年度準々決勝、東海大大阪仰星34-22東福岡)を除き、2戦目以降の8戦は4勝4敗、その試合に勝った方が優勝している。

【ラグビー界の主なロスタイムの出来事】

◆日本代表 07年W杯フランス大会。カナダ戦で7点を追う後半43分、CTB平がトライ。CTB大西が右タッチライン際からのゴールを決めて同点。W杯の連敗を「13」で止めた

◆社会人 90年度の全国社会人大会決勝。ロスタイムに入った後半42分、神戸製鋼のWTBウィリアムスが60メートルを走りきり、劇的な逆転トライ。3連覇を達成

◆大学 昨年の関東大学リーグ戦。退場処分で1人少ない大東大は、後半ロスタイムにシンビン(10分間の一時的退出)で13人。ロスタイムは14分が経過したが、関東学院大の猛追を振り切り31-26で勝利した

◆高校 17年度の全国高校大会準決勝。5点リードの大阪桐蔭は、試合終了間際に桐蔭学園の猛攻を受ける。63回に渡る連続攻撃でゴール前1メートルまで攻め込まれたが、12-7で勝利。ロスタイムは8分が経過していた。