過去3回の出場で金、銀、銅メダルを獲得した三原舞依(22=シスメックス)が、新たな思いとともに首位発進した。

自己ベストの72・62点を記録し、2位のイ・ヘイン(韓国)とは2・65点差。演技後の記者会見で上位3人に授与される小さなメダルを首にかけると、壇上で堂々と言った。

「目標はもちろん、今、首にかけている金メダルを目指しています。目指すもの(頂点)は目指しながら、自分の演技に集中して、やるべきことをやって、全日本での悔しさを克服できるようなフリーを、力強く滑りたいと思っています」

その数十分前。観客の拍手に包まれ、ほほえむと、胸の前に置いた拳に力を込めていた。悲しい曲調に強さを加える「レ・ミゼラブル」の「夢やぶれて」。流れるようなダブルアクセル(2回転半)に始まり、ルッツ-トーループの連続3回転、3回転フリップを物語にとけ込ませた。「以前の3回も表彰台に乗れていて、大好きな大会。日本代表として出させてもらえるのが、すごくうれしくて、ワクワクしながら滑ることができています」。3つのスピンとステップも最高のレベル4と完成度は高く、1つ1つの要素を丁寧に紡いでいった。

ほんの数日前、数週間前まで、心は晴れなかった。

年の瀬の全日本選手権では3位に2・79点差の4位。3枠の北京五輪代表をめぐる選考の対象となりながら、あと1歩、届かなかった。だが、2季前の19-20年シーズンに体調不良で全休していたとは思えない成長曲線を描き、国内の実力者たちと競り合った。

本気で五輪を目指していたからこそ、悔しかった。

「年末はなかなか立ち直ることに時間がかかって、すごくすごく落ち込んだ」

年明けは、元日から滑った。それでも簡単に前を向くことはできない。自問自答を繰り返しながら、ゆっくりと、1歩ずつ進んだ。

「すぐに不安になったり、落ち込んでしまうことが多くて…。でも『頑張ってやりたい』という、自分との葛藤もありました」

前を向けた理由は2つあった。

「たくさんの方々からメッセージとか、お手紙をいただきました。温かい方々に囲まれて『幸せ者だ』と思いながら、応援してくださる皆様のおかげで、ここまで戻ってこられたと思っています」

そして、もう1つ-。

「全日本の自分の演技に対する悔しさを、4大陸で克服したいと思って、練習してきました」

ジュニアの下のカテゴリーにあたるノービスの頃、長野・野辺山で行われていた全国有望新人発掘合宿に参加した。「どうしてもトリプル(3回転)ループを跳びたい!」。そう誓って神戸を出発した少女は、無我夢中で同じジャンプを繰り返したという。

「先生、トリプルループ跳べた!」

合宿後、無邪気に報告してきた教え子に向き合い、中野園子コーチは「他が全部ダメになっちゃったじゃん!」と笑った。決めたことは、必ず成し遂げる。自らに課したハードルに対し、逃げずに向き合う。時に苦しさにも変わるその性格が、三原を強くしてきた。

SP首位発進の「うれしさ」より、全日本選手権で失敗した「悔しさ」を胸に、22日のフリーに向かう。その先には、新たな景色が広がっている。【松本航】