テレビ朝日系で5日に放送された「神様が選んだ試合」は面白かったですね。ご覧になった方も多かったのではないでしょうか。特に09年WBCでのイチローを巡る代表チームのストーリーはよかった。

 関係者にていねいにインタビューしていたし、イチロー自身が普段に話しているような感じで答えているのも、結構、めずらしい。生意気な言い方で申し訳ありませんが、とてもよかったと思います。

 そんな私は、番組を見ながら自分の「あの日」を思い出していました。

 例によって個人的な話も書くこのコラムですが、2009年3月、米国ロスのドジャースタジアムであの日韓による決勝戦が行われた日は、大阪府の公立高校で合格発表があった日だったと記憶しています。

 受験生だった長女が無事に合格。そのまま入学説明会となったので学校に出向きました。

 このコラムを読んでいただいている方は、わが家が父子家庭なのはすでにご存じだと思いますが、そういう公式の場には私が行くしかないということで、長女と並んで席に座りました。

 しかし。

 まさに日本と韓国の決勝戦が始まっているのです。説明会の開始時点で、すでに試合途中です。

 どうなってるんやろ。負けてたりせんやろな。イチローは打ってるのか。

 しばらく先生方の話を聞いていましたが気になって仕方がない。あ-っ。もう辛抱たまらん。というわけで長女に告げました。

 「1人でええか?」

 長女はめんどくさそうに「ええよ。はよ行き」と言ってくれました。やや申し訳なさは残りましたが、そそくさと学校を抜け出し、最寄りの阪急電鉄・岡町駅へ走りました。

 「駅前に電気屋さんがあったはず!」

 はたしてその店頭ではテレビ中継を流していました。9回裏、1点リード。マウンドには抑え役をするとうわさのあったダルビッシュが上がっています。

 「おお。ほんまにダルビッシュや。(藤川)球児は出番なかったんやなあ」

 そんなことを思って勝利の瞬間を待っていると、なんと同点になってしまった。当時はデスク(内勤)だったので、もう電車に乗らないと出勤時間に間に合わない。

 仕方がないので阪急電車に乗りました。空いていたので座ったけど結果が気になる。すると隣の若者が当時あったガラケーのワンセグで中継を見ているではありませんか。

 「ちょっと見せてもろてもええですか」と声を掛けると「どうぞ。どうぞ。日本は勝てますかね」と気持ちよく見せてくれました。

 そしてあの場面。私は若者に言いました。

 「こういうとき、イチローは打ちますで。昔から知ってますねん」

 そして電車内に若者と私の思わず漏らした「よっしゃ!」という声が響きました。

 あの試合、9回にイチローは林昌勇から長打を放っていました。のちにイチローに言いました。

 「テレビで見る限り、すごく緊張してたなあ。あの投手は前の打席で打ってたし既に見切ってたんちゃうんかいな?」

 イチローは苦笑しながら言ったものです。

 「打ってましたけど、あそこは状況が違いますよ、状況が。ここで打てなかったら、こりゃ、しばらく日本に帰れん、シーズンが終わっても帰れんな、と思ってましたよ」

 プレーする側も、見ている側も忘れられないあの瞬間。みなさんはどこであの場面を見ておられましたでしょうか。いつまでも記憶に残る一瞬。それを見たいのがWBCなのです。