1年目から勝負する!

 阪神は28日、大阪市内で和田豊新監督(49=前打撃コーチ)の就任会見を行った。契約は3年。現役17年、コーチ10年という異例の生え抜き監督は「来年は皆さんと喜べる年にしたい」と7年ぶりのV奪回を誓った。チームリーダーには鳥谷と藤川を指名。タテジマの血をたぎらせ、タイガース愛で優勝へ突っ走る決意だ。

 晴れのひな壇、和田新監督はきっぱりと約束した。

 「歴代監督さんを見ても契約年数はあってないようなもの。私も1年勝負と思っているし勝負をかける。補強もしていただけるだろうし、現有戦力にスパイスを加えれば優勝争いできるし、優勝できる。来年は皆さんと喜べる年にしたい」

 球団提示は3年契約。だが時間に甘えるつもりはなかった。猛虎76年の歴史をひもといても、監督就任1年目で優勝できた指揮官はいない。だが49歳の第32代青年監督は、そのジンクスに終止符を打ち、頂点をつかみ取る誓いを立てた。

 「悩んだこともありました。うれしいとか浮かれる要素は何一つありません」

 コーチとして6年連続V逸し、岡田&真弓監督が辞任した責任が何度も口をついた。チーム自体、勝ちながら育てなければならない世代交代の過渡期にある。さらに来季はマートン、新井、鳥谷ら主力の去就も微妙だ。状況は厳しい。それでも目指す1年目からの優勝宣言には、誰にも負けないタイガース愛があった。

 「子どものころから野球をしてきてある瞬間、タイガースの存在が野球を超えた。FAも導入されたけど何とかこのチームを強くしたい、優勝したいと思いが変わった。想像もしなかったけどそれをやらせていただくチャンス。ファンを喜ばせたいし、喜ばせる。その一心でお受けしました」

 千葉出身で関東弁の青年は、22歳の84年秋に日大から入団。1度もユニホームを脱がない異例のタテジマ生活27年で、タイガースは家族同然の存在になった。だが1年目の85年を最後に日本一はない。03、05年以外はリーグ制覇できず大半が悔しい歳月だった。

 そして今年、次女彩美さん(20)が甲子園で売り子のアルバイトをした。その時、容赦ないファンの怒りも目の当たりにしたという。父が心配で仕方ない。だがそれは何年も勝ちを渇望し続ける、虎党の心からの叫びでもあった。すべては優勝が解決すると腹を決めた。

 「娘は叱咤(しった)激励、罵声(ばせい)も含めていろんな声を聞いたようです。『もう来年はできないかも』とも言っていました。父親への罵声が聞こえる所でやらせるのはかわいそうだし。でも、そうならないように頑張ります!」

 チームリーダーには鳥谷と藤川を指名した。ともに今季国内FA権を取得。まだ態度を明確にしていない中、新監督からの熱烈な残留ラブコールでもあった。

 「もっと前に出て引っ張っていってもらいたい。態度、発言を含めて、グイグイ引っ張ってもらいたい」

 監督就任を節目に座右の銘をアレンジした。現役時代は「失意泰然」。この日から「泰然自若」とした。

 「これからは“失意”ではいけない。今日を境に、変えさせていただきます」

 苦難の道は覚悟のうえ。それでも動じず常勝軍団を作る。これが虎への恩返し。心の支えにタイガース愛がある。【松井清員】

 ◆和田豊(わだ・ゆたか)1962年(昭37)9月2日、千葉県生まれ。我孫子-日大。84年ドラフト3位で阪神入団。88年に遊撃手としてレギュラーに定着し、この年に当時のプロ野球記録となる56犠打をマーク。97年には開幕から24試合連続安打を記録。01年に打撃コーチ兼任となり、このシーズン限りで現役引退。02年からコーチ専任。通算1713試合出場、1739安打、打率2割9分1厘、29本塁打、403打点。二塁手でベストナイン2度、ゴールデングラブ3度。174センチ、75キロ。右投げ右打ち。