<DeNA4-4阪神>◇16日◇横浜

 深刻な場面で笑いが生まれた。8回2死、苦しそうに打席を外すDeNA後藤武敏内野手(32)。そこに中畑清監督(58)が歩み寄った。その時、誰かが気がついた。「あ、セミだ」。中畑監督の後頭部、帽子のNPBマークの上にセミが止まっていた。「ベンチに戻ったら、みんなクスクス笑ってて、不謹慎だなって思ったら、セミが止まってたんだな。しょんべんひっかけられなくて良かったよ」と、もう1度、笑いを誘った。

 この日はチームの危機だった。球場に着いた中畑監督にびっくりする報告が入った。中村紀洋内野手(39)が球場入りした際、車のエンジンを切ろうとキーを回そうとしたところ、右肘関節に痛みが走ったということだった。打撃練習でも、スローイングでも様子を見たが、中村らしい思い切りの良さが出ない。そこで代役のクリーンアップに後藤の起用を決めて臨んだ。

 その後藤は、2試合連続の追撃の5号ソロに勝ち越し適時打と大暴れしながら、8回の第4打席、2ストライクの場面で、異変を訴えた。脱水症状から左足付け根に違和感を覚えたとのことだった。車のキーをまわしたことで主力が欠場するのも、脱水症状で2ストライクから打者が交代するのも、セミと一緒に監督が代打を告げるのも、めったにないこと。ドタバタでのドロー劇となった。

 虫にも好かれた男は「うちは勝たなければいけないんだけど、負けパターンの中から引き分けたと考えて次に臨めば違う」と前向きにとらえた。中村も後藤も重症ではないと報告を受けた。セミは後頭部から飛び立ち、中畑監督の額にもう1度止まった後、夜空に消えていった。【竹内智信】