大関照ノ富士が横綱白鵬を破り、勝ち越しを決めた。これでかど番を脱出。勝ち名乗りを受け、30本の懸賞の束を受け取った。この中には1本、「イチジク浣腸」の懸賞がある。毎日必ず、照ノ富士の取組を指定して懸けられているのだ。

 なぜ、照ノ富士にイチジク浣腸なのか? 実は、腹痛がきっかけで生まれた縁がある。

 昨年春場所11日目のこと。おなかを下していた照ノ富士は腹に力が入らず、魁聖に寄り切られた。敗戦後の支度部屋で「力を入れているときに出そうで…」とぼやいた。土俵下に控えている時にもよおし、トイレに行きたくても行けなかった。力が入らない。「入れたら出ちゃうじゃん。勝っても、出たらおかしいやろ」と熱弁した。

 この様子を、イチジク浣腸を販売するイチジク製薬の社員が、新聞記事で知った。

 特定の力士への「指定懸賞」を検討していた同社は、「おなかつながり」で支援を決めた。おなかを下していたのが照ノ富士で、便通をよくするのがイチジク浣腸なのだが、そこは「おなかつながり」という縁で、理屈ではない。夏場所から毎日、照ノ富士に懸賞を懸けることを決定した。

 するとその場所、照ノ富士は初優勝を果たし、大関に昇進。ありがたみを感じた照ノ富士は、懸賞袋が入った番付額を同社に贈った。「おなかが悪かったけど、いいこともあった。その後、社長がわざわざ、部屋まであいさつに来てくれたんですよ」。

 照ノ富士と対面した同社の斎藤慎也社長は「すごい気さくな方。握手したら肉厚がすごくて、柔らかかった。温かい手でした」と感激。「額が届いた時は、みんなでびっくりしました。あの場所は13勝2敗でしたから、13枚の懸賞袋がありました」。人柄にもほれ、今も懸賞を懸け続ける。

 贈られた番付額は、東京・墨田区の本社内のミーティングルームに飾られている。おなかでつながった、照ノ富士とイチジク浣腸の縁。同社長は「次のステップへ向けて頑張っていただきたい」と期待を寄せている。【佐々木一郎】