全日本の社長でエースの武藤敬司(47)が、「武藤イズム」伝道を掲げて復活のリングに立つ。右ひざ手術のため3月に戦線を離れた武藤は10日、後楽園大会での船木誠勝戦で約半年ぶりに復帰する。今後は所属レスラーとのシングル戦を中心にした限定参戦がメーンになる。年内絶望といわれながら早期復帰に踏み切った理由、体に負担のかかるシングルにこだわった理由など、思い悩みながら結論を出した胸中を聞いた。

 武藤は4月に「変形性ひざ関節症」の手術を受けた。右ひざの遊離軟骨の破片を取り除いた。当初、年内絶望と言われたことを考えれば、異例の早期復帰だ。

 武藤

 医者からは「若干、復帰が早いのでは」と言われた。だけど、プロレスをやりたくて仕方がなかった。復帰を延ばすことはできたと思うが、ひざや筋力の回復はわずかしか期待できない。なら、プロレスに対する気持ちが最高潮に達したときに戻りたかった。

 早期復帰は、あっさり出た結論ではない。約4カ月のリハビリ生活は、苦悩の連続だった。

 武藤

 手術前は痛みで眠れなかったけど、手術後も眠れないときがあった。「復帰できるのか?」とか「おれがいなくなったら全日本はどうなる?」っていう不安が常にあったから。

 復帰戦は船木とのシングル。今後も、シングルでの限定参戦が基本だ。ダメージを受けても代わる選手はいない。故障明けであることを考えれば、タッグでの復帰が望ましいはずだが、武藤の考えは違った。

 武藤

 今は無意味な試合は1つもできないっていう気持ちが強い。1戦1戦、テーマを設定して、完全燃焼したい。過去にそうそうたる選手と戦ってきた。いずれは全日本の全員とシングルをやって、その経験を体で伝えたい。「武藤敬司ここにあり」という「イズム」を伝えるには、シングルじゃないとだめ。手術をしてから、「おれはいつ何時、どうなってもおかしくない」と悟った。だから、まだ体の動く今しかない。

 完治を待たずに復帰することは、命取りになりかねない。手術後は、リハビリやトレーニング方法にも気を配るようになった。

 武藤

 1日3~4時間の練習は、ほとんど体調の調整に使っている。ひざを動かさずにスタミナを付けられるバイクがメーンで、水泳もやる。右足の筋肉が細くなってしまったから、筋トレは週1回から2回に増やした。足のケアにかける時間はかなり増えた。

 プロレスへの情熱をリングで体現するのが、武藤イズム。「シングル対決シリーズ、途中でギブアップしちゃうかもしれないな」という。それでもリングに立つ決意をした。口ぐせのように言う「プロレスの世界普及」という夢のためだ。

 武藤

 今年はサイパンで興行をやった。来年にはシンガポール進出の話も具体化してくる。世界に出てプロレスをするとき、自分は「顔」でありたい。いつかは諏訪魔の時代が来るだろう。だけど、今は「偉大なプロレスラー武藤」でいたいんだよ。【取材、構成・森本隆】