アマチュアを統括する日本ボクシング連盟の山根明会長(73)が27日、プロによる無断の引き抜き防止策として新ルールを7月1日にスタートさせることを明かした。「アマチュア規則細則」を設定。プロがアマ選手を勧誘する際に同連盟の承認が必要となり、またプロ転向時には選手強化寄付金(移籍金)の額を同連盟が精査するなどの条件がつく。物議を醸したロンドン五輪ミドル級金メダル村田諒太(27=三迫)のプロ転向問題を繰り返さないために、初めて明文化した。

 来月1日に「村田ルール」が動きだす。日本ボクシング連盟は「アマチュア規則細則」と、その順守を求めた誓約書を関係各所に配布。対象は小学生以上のアマ選手だ。同細則冒頭には「プロ協会によるアマチュア選手に対する無秩序かつ強引な引き抜き行為により連盟の財産ともいえる選手が失われている現状」と問題提起。2月にアマ引退→プロ転向で物議を醸した村田を引き合いに、山根会長は「選手をただで抜いていくことはダメ」と言った。

 同細則で初めてプロ転向時のルールを明文化した。同細則は第1条から同9条までで構成され、ポイントを要約すると次の通り。

 (1)プロのスカウト行為を受ける際にアマ選手は事前に同連盟の承認を得る。

 (2)連盟会長が指名する特別委員会が、プロジムの練習環境や活動計画、選手強化寄付金の額を精査する。

 (3)特別委員会によって承認の仮決定を受けた後に連盟会長らが面談を行う。

 (4)同連盟がプロでの活動の監督を行い、不適切な場合は承認を取り消す。

 アマ選手の勧誘時からプロ入り、その後の活動もチェック。最大の目的はプロによる事前通告なしの引き抜き防止。さらに多額の海外遠征費などを出費して育てた選手をプロに送り出す代わりに、選手強化寄付金=移籍金を受け取り、アマの普及や底辺拡大につなげる。(4)について、山根会長は「プロは事業、商売。アマは教育の一環でボランティア。プロにいって人生をつぶした選手も多い。引退後の就職もちゃんとしてほしい。(選手を)使い捨てはするな」と指摘した。

 同細則を厳格に適用した場合、小学生からプロのジムで練習し、高校でアマのリングに立った選手が、もともとのジムでプロになる際も同連盟の承認が必要。だが山根会長は「それはケース・バイ・ケース。子供の頃からプロジムでやっている子に同じ縛りはしない。審査でダメとはいわない」と明言。村田は南京都高→東洋大→東洋大職員とアマチュアで成長しており「村田のようなケースには厳しくする」とした。

 同細則では、アマの選手登録終了後も2年間適用されて違反があった場合は登録を取り消す。山根会長は「プロとアマでルールは違うが、ボクシングは一緒。お互いに気持ちを通じて、話をすれば。一方的に(審査ではねる)と言っているわけじゃない」。あくまでアマひと筋で育った選手の急転プロ入りを防ぐことを目的とした。【益田一弘】

 ◆ロンドン五輪金メダル獲得後の村田

 昨年8月の国体近畿ブロック大会で優勝後、引退を視野に長期休養する考えを示した。しかし、同年10月、一転して現役続行宣言。同12月には海外留学を検討していることを明かした。今年1月に諸事情で海外留学を断念。2月にプロ転向の意思を表明した。プロ転向宣言を受けた日本(アマチュア)ボクシング連盟は理事会を開き、引退と現役続行、さらにプロ転向を巡っての村田の行動が一貫性を欠いたとの理由で、史上初のアマ選手としての引退勧告を決議した。