韓国若手女優の代表格ハン・ヒョジュ(28)を先日、インタビューした。

 公開中の主演映画「ビューティー・インサイド」(ぺク監督)は、彼女の恋人が「特異体質」という設定。目覚めるたびに姿を変える奇想天外なストーリーだ。宮廷ドラマ「トンイ」(10年)などで、振幅の大きい演技を見せている実力派にとってもチャレンジングな題材だ。

 姿形にとらわれず、その「魂」を愛するという根源的なテーマを描きながら、その撮影現場はさながらドタバタ劇のようだったという。恋人役を演じたのは老若男女123人の俳優たちで、このうちの十数人とのキスシーンは何と1日で撮影した。

 「合成しなくてはならないのでブルーシートをバックに撮影したんですけど、私の向こう側に相手役の人が列を成して並んでいるんです。その日、初顔合わせの人もいたんですよね。アハハハッ!」

 撮影秘話を明かすヒョジュは豪快に笑う。

 「恋人はどう考えてもおかしなキャラクターなのに、そんな人を愛せるなんてイス(ヒロインの名)はどれだけ器が大きいんだって思いましたね。尊敬してしまいます」

 繊細な演技とは対照的に、ざっくりとした役柄分析は気持ちいいほどだ。

 もともとメーキャップの薄い人だとは思うのだが、インタビューでは、ほぼノーメークでカメラの前に立った。文字どおりの「素材」に成り切り、「どんと来い」という自信がにじんでいた。積み上げてきた「演技力」が根底にあるのだろう、と思った。

 日刊スポーツが発行している韓流マガジン「Choa」で月1回の映画紹介コーナーを担当していることもあって、韓国映画を見る機会が増えている。

 「ビューティー-」に限らず、多岐にわたるテーマ、裏切らないクオリティーの高さにいまさらながらに驚かされる。

 14年の「怪しい彼女」は、突然20代に若返った老婦人のこれまた奇想天外な話だったが、最後は普遍的な親子愛に収束。ファン・ドンヒョク監督はコミカルとシリアスを巧みに切り替え、新星シム・ウンギョン(21)の年齢に似合わない器用さが印象に残った。

 同年の「ソウォン 願い」は心身に傷を負った少女の再生物語。芦田愛菜にそっくりで、輪を掛けたように演技のうまい子役のイ・レ(9)に泣かされた。彼女は翌年の「犬どろぼう完全計画」で、一転こましゃくれた少女を演じてほほ笑ましかった。

 15年「タチャ 神の手」でBIGBANGのT・O・P(28)が見せた多様な表情は、酸いも甘いもかみ分けたベテラン俳優をほうふつとさせた。

 軸足が俳優にあろうと歌手にあろうと、ありのままでその場をさらえるはずの愛らしい子役であろうと、そこにはテクニックとしての「演技」を信奉する姿勢がある、気がする。文字通り「プロの女優」であるヒョジュと同じものを感じるのだ。

 自然な動き、セリフ回しに勝るものはないが、それが細やかな表現になればなるほど同国人にしか理解しにくい微妙な表現となる。韓国映画の端々にも、きっと我々の気付かないそういった表現があるのかもしれない。が、テクニカルな意味での演技がしっかりしているからこそ分かりやすい。

 この分かりやすさが、国境を越えて評価される要因ではないか、と思う。

 15年「パイレーツ」には、どこか「パイレーツ・オブ・カリビアン」の匂いがあったし、「江南ブルース」は往年の日活アクションをほうふつとさせた。

 が、「パイレーツ」の大仕掛けは「-カリビアン」を上回る奥行きを見せたし、「江南-」の大乱闘シーンは、人と手間を惜しまない努力の跡をうかがわせた。他国の得意ジャンルにも臆するところがない。

 「韓流」がブランドになってもチャレンジャーとしての気持ちを失っていない。善しあしは別にして日本映画界で時々感じる「照れ」のようなものはない。

 ブームから一ジャンルとして定着した韓国映画は、今後も多様な作品で楽しませてくれそうだ。【相原斎】