仲代達矢さん(80)が文化勲章を受章した。歌舞伎以外の俳優で受章するのは森繁久弥さん、山田五十鈴さん、森光子さん、高倉健さんに続いて5人目。杉村春子さんも受章の打診があったが、辞退している。文化勲章は文字通り勲章だけだが、ほとんどの人は文化功労者になってから文化勲章を授与されている。功労者には年間350万円の年金が終身支給されている。
仲代さんの60年近い役者人生の原点は「戦争への恐怖」と「葉っぱを食べるほどの貧乏」という。終戦3カ月前の1945年5月、当時住んでいた東京・渋谷で空襲にあい、近所の女の子の手を引っ張りながら必死で逃げた。途中でいやに軽いなと気付いて振り返ると、引いた手の先に体がなかった。焼夷(しょうい)弾が女の子のぶつかり、体がなくなっていたのだ。「少しずれていたら、僕は死んでいた」。
8歳の時に父が結核で亡くなり、家庭は貧乏だった。「食う米もないのに誰も助けてくれなくて、葉っぱを食べるほどの最低の生活だった。甘い物がほしいと思うと歯磨き粉をなめたり、夢に見るのはいつも大福だった。バナナを食べられるなら、死んでもいいと思った」。
そんな体験をした仲代さんだから、今の政治状況に危機感を抱いている。安倍政権が成立させた「安保法案」を「戦争法案」と言い切る。「あしき大戦への抵抗という意味で、映画『人間の條件』がある。主人公の梶を演じたけれど、侵略した日本人が最後は悲惨な目に遭遇するという話で、名作は時空を超えて残っている。私も死ぬまでに大反戦劇を作りたい。あしき体制に抵抗するためにも」。
新劇俳優としての意地がそこにある。【林尚之】




