前進座の代表である中村梅之助さんが85歳で亡くなった。最近は舞台での活躍が多かったが、一般的に思い出すのは、「遠山の金さん捕物帖」の金さん役などテレビでの姿だろう。

 「遠山の金さん」は映画、舞台でもおなじみの人気作だが、テレビで一躍有名になったのは、梅之助さんが演じたテレビ朝日系「遠山の金さん捕物帖」だった。その後、橋幸夫、高橋英樹、松方弘樹、杉良太郎らが演じているが、テレビの金さんの印象は梅之助さんが圧倒的だった。その後の「伝七捕物帖」でも黒門町の伝七の明るいキャラクターが人気を呼び、大河ドラマ「花神」には医者上がりの軍略家大村益次郎役で主演した。

 数多くのドラマに主演した梅之助さんだが、私生活は質素だった。前進座は門閥主義の歌舞伎界に反旗を翻して設立された劇団で、コミューンのような共同生活を信条とした。梅之助さんがテレビ出演で得た多額のギャラは、まず前進座に入り、その後、給料としてもらっていた。しかも、幹部たちは「前進座住宅」と呼ばれる集合住宅に住んだ。梅之助は生涯、一軒家に住むことはなかったし、車もなかった。

 息子の梅雀も「何よりも劇団のために全力で尽くしてきた人生でした。劇団を守ろう、良い作品を作っていこうと、最後まで闘い続けた父を、誇りに思います」と話した。梅雀は9年前に前進座を退団し、劇団にすべてをささげた父とは違った道を歩んだが、それだけに父の劇団への熱い思いをよく知っていた。【林尚之】