カンヌ映画祭「ある視点部門」で黒沢清監督が日本人初の監督賞を受賞してから5カ月。フランスをはじめ各国の観客や記者に感動を与えた1本が、ついに日本で公開された。

 ピアノ教師(深津絵里)のもとに、3年前に失踪した夫(浅野忠信)が帰ってきた。必死に探した夫に「死んでいる」と告げられた妻は、自宅に帰るまでの3年、旅してきた場所を再訪しようと言う夫と一緒に旅に出る。知らなかった夫の一面を知り、生前秘めていた思いを打ち明け、互いへの思いを深めていく。

 現実と、死者と旅をするファンタジックな部分が交錯し、そのはざまに入り込んで2人を見詰めている感覚に陥る。心地よさを感じたのは、本当に愛し合った男女は、たとえ何があろうとも愛し合い続けるのだろうし、死は愛の終わりではなく、最愛の人が亡くなったところから始まる愛も美しいと思えたからだ。

 深津と浅野が演じる夫婦が醸し出す空気を感じてほしい。あえて他に見どころを上げるなら、白玉団子を練る深津の手、走る深津、そして蒼井優演じる、夫と関係した女と激突する深津の顔か。“女・深津”を堪能できる1本だ。【村上幸将】

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