劇団理事で専科の轟悠(とどろき・ゆう)。今年2本目の主演作は、ジャン・コクトーの戯曲をもとにした宙組公演「双頭の鷲」だ。相手役は来年4月に退団する宙組トップ娘役、実咲凜音(みさき・りおん)。轟は王妃暗殺を狙う男にふんし、実咲が王妃役。敵対するはずの2人が運命的に出会い、恋に落ちる。轟が実咲とのコンビでこん身作に臨む。兵庫・宝塚バウホールで3日まで、KAAT神奈川芸術劇場で9~15日上演する。

 純白シャツ姿の轟が憂いを秘めた目で見つめ、真っ黒衣装の実咲と横たわる。今作ポスターはモノトーンで、官能的と評判だ。

 「白、黒、モノトーンの世界観で、セットは白、透明が基調。作品のテーマは孤独と破滅願望、愛です」

 今作はフランスの天才芸術家、ジャン・コクトーが、エリザベート暗殺事件から着想し、書いた戯曲をもとに制作。王妃批判の急先鋒(せんぽう)で、暗殺を狙う青年が、仲間の背信を知り、傷つき、逃げ込んだのは王妃の部屋だった。

 「最初の登場、私はセリフがない。相手が王妃で、ただただ緊張し、心の動揺を抱えたままに。その心情を醸し出していかないと」

 孤独を抱えた2人は、瞬時に恋に落ちる展開だ。

 「エリザベートではないけど、世界観はベースに。王妃がエリザベート、青年がルキーニであり…」

 宝塚歌劇代表作のひとつ「エリザベート」の主要キャスト、暗殺者のルキーニ。轟は20年前、日本初演となった一路真輝主演公演で、ルキーニを演じている。

 「自由に、一路さんのトート(主人公)を見ながら、作っていった。歌も、一路さんに比べたら、全然、楽させてもらいました。でも、歌がお上手な一路さんが悩んでらしたので、私は悩んで当然だと思った」

 一路をはじめ、轟らの奮闘が成功し、演じ継がれる名作になった。くしくも今作の相手役、実咲は前作が「エリザベート」。非運の王妃を演じきった。

 「実咲さんとは初めてですが、そつなく器用。エリザベートをやった後の王妃。退団を発表し、心の変化が起きている中で、思いっきりやってくれたら」

 各組へ主演級で出演するのが、理事で専科スター、轟の立場だが、宙組への出演は久々で、ほとんどの生徒と初タッグだ。

 「男役さんが意外に、かわいくて。愛月(ひかる)さんも、とても女性らしくてびっくり! 実咲さんと私が主題歌を歌っていると、けいこ場の横で目をウルウルさせて(笑い)」

 トップ経験者の轟は生きたお手本でもあり、けいこ場では常に視線を浴びる。

 「私も必死です。(下級生から)『失敗した』とか言われないように。下級生の真剣な姿から刺激も受け、私自身、手を抜かずに一生懸命やってきた。その積み重ね。今も必死です」

 いまだ毎回、緊張する。

 「もう、緊張感を楽しんでいます。『私はできる』『やればできる』とか、心の中で繰り返して。ディズニーの『願いはかなう』、坂本(九)さんの『上を向いて歩こう』を歌ったり」

 前月組トップ龍真咲が退団し、100周年時のトップ体制は一新された。もうすぐ新世紀3年。“理事スター”は、タカラヅカを率いて、まだまだ「上」を向いて進む。【村上久美子】

 ◆ミュージカル 双頭の鷲 フランスの芸術家ジャン・コクトーが、ハプスブルク家皇妃エリザベート暗殺事件から着想し、46年に書き上げた戯曲をもとに、劇団の植田景子氏が脚本・演出を手掛けた。

 婚礼の夜に暗殺された国王の10年目の命日、古城で1人、亡き夫をしのんでいた王妃(実咲凜音)のもとへ、スタニスラス(轟悠)という男がけがを負い、飛び込んできた。男は無政府主義者で王妃暗殺を狙っていたが、仲間の裏切りを知る。男と王妃。孤独を抱えた2人はひかれあうが、悲劇的な結末へ進む。

 ☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年「愛あれば命は永遠に」で初舞台。97年雪組トップ。02年に故春日野八千代さんの後継として専科へ、03年から理事。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞。昨年はギリシャ悲劇「オイディプス王」、今年は3月に花組公演で米大統領リンカーンを演じて主演。趣味は油彩画、デッサン画。夏に個展も開催。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。