長女で写真家の蜷川実花さん(43)が通夜の前に会見し、「一番尊敬できる人。入院中に何回も危ない時があったけれど、鮮やかによみがえった。多くの人に愛され、幸せな人生だった」と亡き父をたたえた。

 昨年12月に肺炎で入院以来、毎日のように病室を訪れた。亡くなった12日は息を引き取る20分前までいたが、仕事のために病室を離れた直後に訃報を聞いた。「2日前から呼び掛けても反応がなかった。苦しまず穏やかな最期だった。家族も覚悟していた。寂しいけれど、父は最後まで駆け抜けた」。10日前からは家族に「ありがとう」とことばをかけ、1週間前に妻の女優真山知子さん(73)が病室にいなかった時、「真山は?」と言ったのが最後の言葉になった。3日前には、実花さんが「後はまかせて」と言うと、うなずいたという。

 若いころは真山さんが女優として稼ぎ、蜷川さんが実花さんら2人の子育てをした。「長男のように育てられ、『自立した人間であれ』とよく言われた。1番の褒め言葉は『お前、最近流行しているみたいだな』でした。優しい父だけれど、私の息子(8歳)に見せる顔はデレデレとして、私には見せない顔だった」。 蜷川さんは8歳と生後8カ月の2人の孫の成長を楽しみにし、「いい兄ちゃんになったところが見られないのが、一番残念」と言っていたという。

 ひつぎには、これから演出する予定だった舞台の台本を数冊入れたという。遺影は、昨年9月、「NINAGAWAマククベス」の舞台稽古中に実花さんが撮影した。「生涯現役にこだわった人だから、闘うイメージです。遺影になるのかなと思って撮りました」。涙を見せることなく、気丈に話した。