「泣き歌王子」「100点満点男」などと呼ばれる新人歌手林部智史(28)が22日、東京・銀座山野楽器本店で「あいたい」発売記念イベントを行い、「歌謡曲の聖地」と呼ばれる同店で21世紀最多の約3000人の聴衆を集めた。

 日本の一等地、銀座4丁目交差点のそばの歩行者天国が人だかりで埋め尽くされた。切ない歌声に中年女性たちの足が止まった。むせび泣く人も出る光景に、林部の目も潤んだ。「東北出身の僕には、銀座のど真ん中ですごいことやってるなとうれしいです」。道路の安全確保のために予定より1曲少ない5曲にとどめるほどの盛況に、店関係者は「店でのイベント史上最高クラスの人数かも」と興奮。実際は創業124年の歴史では、97年2月にNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」の登場人物、演歌歌手オーロラ輝子(女優河合美智子)が集めた約3500人が最高だったが、林部は今世紀最多記録を出した。

 デビュー曲「あいたい」は2月に発売も、今月12日放送のテレビ東京系「THEカラオケ★バトル スペシャル 2016年間チャンピオン決定戦」で、予選と決勝で100点を連発し、昨年に続く2年連続年間チャンピオンに輝くと、再びセールスが伸びてきた。24日付のオリコン週間チャートでは、前週の90位から13位に急上昇。「8カ月たっても注目していただけるのは、曲の力のおかげ。僕も曲と一緒に成長したい」。売り上げ枚数も、ヒットの目安となる5万枚が目前。年末のNHK紅白歌合戦初出場や日本レコード大賞新人賞も、視野に入ってきた。【瀬津真也】

 ◆解説 林部は、時代を象徴する歌手といえる。有名歌手が出演する歌番組は減り、一般人も参加するバラエティー枠のカラオケ番組が取って代わった。林部も昨年の「THEカラオケ★バトル スペシャル」で100点を出したことが、プロデビューにつながった。近年では、08年の木山裕策や13年のクリス・ハートも、素人のカラオケ(オーディション)番組をきっかけにプロデビューし、NHK紅白歌合戦まで駆け上がった。プロでも当初売れっ子ではなかったMay J.や新妻聖子は、関ジャニ∞司会のバラエティー番組内のカラオケ対決の優勝で脚光を浴びて、飛躍した。

 CDが安易に買われなくなり、主な購入者が中高年層になった今、財布のひもを緩めさせるには、はやりや知名度だけではない本物の歌唱力が求められる。今後も実力あるアマチュアが、プロに転身するチャンスは増えていくだろう。