日本を代表する俳優、高倉健(たかくら・けん)さん(本名小田剛一=おだ・ごういち)が10日午前3時49分に悪性リンパ腫のため都内の病院で亡くなっていた。83歳だった。

 高倉さんは1人、北アフリカの砂漠に立ち、ウォークマンで中森明菜の「難破船」を聴いていた。

 88年、パリ~ダカール・ラリーを題材にした「海へ」のロケがチュニジアのサハラ砂漠で行われた。撮影が終わった日没前、スタッフが撤収する中で、高倉さんだけがポツンと残った。どんな時でも絵になる人だ。声を掛けても、微動だにしない。思わず駆け寄ってみると、耳にはウォークマンが。聴いていたのが、当時の人気アイドルだったのも意外だった。

 取材現場では立ったまま取材に応じることが多かった。話し始めると首がわずかに右に傾いた。近寄りがたい雰囲気の内側には意外な親しみやすさがあった。

 その2年前、「夜叉」の福井県ロケは1月の深い雪の中だった。それでも舌は滑らかで、10年前の任侠映画の立ち回りまで解説した。取材陣を前にしたリップサービスかと思ったが、共演のいしだあゆみによれば、撮休日に出かけたカラオケスナックでスタッフを前に「唐獅子牡丹」を歌ったという。

 撮影現場でも気遣いを欠かさなかったが、訪れる度にのぞかせる「意外な一面」も楽しみだった。【相原斎】