100メートルにも及ぶ行列が、小平で珍しくない光景になってきた。J1東京の練習場では、明らかに見学するファン・サポーターが増えた。クラブ発足から、練習後にサインや写真撮影に応じるファンサービスは変わっていない。今では休日だと500人、平日でも5月25日は近隣の小学校が運動会の振り替え休日とあって、子どもたちがたくさん訪れた。ファン急増の一番の理由に、クラブ関係者たちは「武藤効果」とハッキリ口をそろえる。そこは疑いようがない。実際に若い女性ファンが多くの列をなしている。

 スポーツ界での女性人気を、最近ではC大阪=セレ女、プロ野球広島=カープ女子、同オリックス=オリ姫、最近では大相撲=スージョなんて愛称も出てきたが、武藤人気となるとどうなのか? 東京ガール、F東姫、武藤女子…。私のセンスがないのか、どれもピンとこないからなのか、世間では浸透こそしていないものの、ブレークした昨季の活躍から、影響力は大きい。

 さらに4月にチェルシーからオファーが表面化すると急増した。あまりにも人数が多すぎる場合は、クラブ側が練習後の選手への体力的な負担などを考慮し、サインと写真はやめて、握手のみに切り替えるようにしている。4月途中からは、ホームページ上で握手のみになる可能性がある旨を、事前告知として出した。クラブにとってファンが増えることはうれしい悲鳴ではあるが、モラルに関する悩みも抱えている。

 ファンからすれば、数少ない選手と触れ合えるチャンス。試合ではピッチとスタンドの間にフェンスと陸上トラックがあるが、小平に来れば目の前で会うことができる。ましてや、代表選手となれば、知名度が高く人気もある。遠方からくるサポーターも少なくないという。以前は常連ファンとおしゃべりをする選手の姿もあったが、今はそれどころじゃないときもある。ごくごく一部のファンに「せっかくきたんだから」と言わんばかりに、最後尾へと並び直してサインなどを求めるファンがいる。特に武藤や代表選手のときはいつのまにか、数十メートルも列が伸びている。クラブスタッフが何度も「並び直し禁止」を呼びかけても応じず、注意をすると「言っていることがわからなかった」と平然と答える人もいたという。

 選手にとってファンはありがたい存在であり、できる限り対応したい思いはあるだろう。しかし「きてくれるのはありがたいけど、連戦中の試合翌日は正直、体がきつい…」と漏らす選手がいることも事実だ。連戦となれば、3日に1試合のペースで、尋常じゃない運動量を走る。すべては勝つため。応援してくれているファンにゴールと勝利を届けるためだ。試合終了直後、ホイッスルと同時にピッチにへたり込む選手の姿を見ているファンなら、なおのこと分かるはず。

 「ファンあってのプロスポーツ」。これは疑いのないところ。だからこそ、問われるモラルがあると思う。反する人間がいれば、必然的に規制が生まれるのが社会の仕組み。ファン対応を日にちや曜日限定にすることを検討する声もある。選手、クラブ、ファンによって築いてきたファンサービスの形。ごくごく一部のファンによって、崩されるようなことがあっては、選手にとってもクラブにとっても、最終的にはファンにとって悲しいことでしかない。【栗田成芳】