リオ五輪男子400メートルリレー銀メダルメンバー桐生祥秀(20=東洋大)が、大会連覇を果たした。追い風1・1メートルの決勝で大会記録を0秒03更新する10秒08で優勝した。歴史的な銀メダルからわずか2週間、しかも試行錯誤の中で、日本人最多となる自身6度目の10秒0台をマーク。五輪の同種目で予選敗退した経験をバネに「9秒台に最も近い男」であることを再び証明した。

 号砲から2歩目で体が浮いた。桐生はスタートが乱れ、左足スパイクのピンが右ふくらはぎ内側の肉をえぐる。ふた筋の血が流れてもひるまない。得意の中盤で「桐生ジェット」がスパーク。一気に後続を引き離し独走。10秒08の好タイムでゴールを駆け抜けた。

 「またけがしちゃいました。でもオリンピアンが負けるわけにはいかない」

 今大会はスタートを試行錯誤。「まだ力の加減がわかってない」と、右ふくらはぎの傷は予選で3本、準決勝と決勝で2本ずつと増え続けた。しかも本格練習わずか2日。それでも日本人最多となる6度目の10秒0台。「試していることはうまくいかないけど、リオ帰りでこれぐらいならいいかな」とにっこり笑った。

 五輪は10秒23で予選敗退。同組にボルトがいて「後半は勝てないから前半でいこう。前半うまくいかないとダメ」と意識しすぎた。今大会はスタートより得意の中盤を重視する走りにトライ。そのこつを聞かれて“感覚派”の桐生は「スーッといってバーン! です」と説明。土江コーチは「五輪前は僕が細かいことを言ってしまった。五輪もこんなふうに戦えればよかったかな…。あの感じで10秒08を出せるならいつでも(9秒台は)出せるんだろうな」と自虐的に言った。

 今季の100メートルは国別対抗戦のデカネーション(13日、フランス)で終了。「今大会で自己ベストは出せなかったが、短い期間で仕上げられた。五輪の経験があってこそだと思う。来年はさらに強くなる」。「ジェット桐生」はまだまだ伸び盛りだ。【益田一弘】