<横浜国際女子マラソン>◇20日◇横浜・山下公園発着(42・195キロ)

 マラソン3度目の木崎良子(26=ダイハツ)が、世界選手権代表のベテラン尾崎好美(30=第一生命)とのデッドヒートを制し、ロンドン切符に前進した。40キロすぎ、尾崎のスパートに1度は引き離されながら必死に食らいつき、残り600メートルで逆転。順大時代に箱根駅伝で活躍した父和夫さん(57)ら家族が見守る中、自己ベストの2時間26分32秒で初優勝した。1月の大阪、3月の名古屋と続く3枠をめぐる五輪代表選考レース。まず横浜から新星が名乗りを上げた。

 40キロすぎ、尾崎の背中が遠のいていく。一瞬、諦めかけた。だが、脳裏に浮かんだのは家族の姿。「両親をロンドンに連れて行きたい」。そんな思いが、木崎の背中を押した。必死に追い、じりじりと差を詰めた。41・4キロで並走。残り600メートルで最後の力を振り絞ってスパートした。父和夫さんら家族の待つ山下公園へ。後ろを振り返り、勝利を確信するとゴール直前でガッツポーズ。マラソン3度目の無印が「本命」に打ち勝った。

 お立ち台では涙があふれた。しかし気分が落ち着くと、冷静に勝負どころを振り返った。「尾崎さんの呼吸が上がっているのが分かった」。過去2回のマラソンは終盤に失速し、優勝戦線から脱落した。今回は夏場、10月と米アリゾナ州の標高2400メートルフラッグスタッフ入り。チームの理解もあり、1月の大阪後は駅伝、マラソンには出場せず、徹底的に走り込み、横浜1本にかけた。「ラストまで粘ろう、ラスト100まで」。これまで培ったものへの揺るぎない自信。終盤の場面でそれが生きた。

 家族の支えが、木崎の走る原動力だ。父和夫さんは順大時代に4年連続で箱根を走り、本田技研狭山では全日本駅伝にも出場した。幼少のころから兄、姉と父で一緒に走りに出かけることが「遊び」だった。父和夫さんはレース前「ライバルのことより、まず自分に勝て」とアドバイス。愛娘の優勝を見届けると「やったと思った。でも、まだ(五輪出場の)スタートラインについたまでです」。そんな父に木崎は「これまで陸上を続けられたのも両親のおかげ。父の分も世界で走りたい」と話した。

 ロンドンに前進したが、まだ大阪、名古屋と選考レースは残る。野口、福士ら有力選手が走ることを考えれば、五輪切符の行方は予断を許さない。それでも林監督は「20分台の力を目指す。世界でも一瞬のスパートに対応できるはず」と言う。26歳ながら、五輪挑戦は今回が最後。京都・宮津高時代から交際する男性がおり、五輪後に結婚する考えだ。「まだ距離への不安があるので、しっかり練習したい」。公私ともに輝ける未来へ、確かな1歩を踏み出した。【佐藤隆志】