五輪メダル獲得へ、無職ランナーの藤原新(30=東京陸協)と、公務員ランナー川内優輝(25=埼玉県庁)が共闘する。日本陸連は12日、都内でロンドン五輪マラソン代表メンバー男女6人を発表した。注目の川内は落選したが、初代表に決まった実業団に所属していない藤原の練習パートナーを志願。藤原も同調し、「川内魂」を引き継ぐ決意を示した。男子は藤原のほか山本亮(27=佐川急便)中本健太郎(29=安川電機)が選出され、堀端宏行(25=旭化成)が補欠となった。

 同じ志を持つ市民ランナーの思いが、運命の日に交錯した。午後4時。先陣を切ったのは、勤務先の埼玉・春日部高校で落選会見に臨んだ川内だった。

 川内

 (10年の)東京マラソンで4位になった時も2秒前に藤原さんがいた。その後JRを辞められてマラソンに専念された。刺激になりました。藤原さんみたいに独立して1人で考えてやってみようと思った。その藤原さんが五輪の舞台に立つことはうれしい。

 かねて希望していた藤原の練習パートナー案。その問いが投げかけられると、即答した。

 川内

 お誘いがあれば勉強させていただきたい。

 午後5時半。都内で会見した藤原は、川内の話題になると、せきを切ったように熱い言葉があふれた。

 藤原

 僕も、彼に刺激を受けて頑張れた。一緒にロンドンを走りたかった。彼はまだまだ才能を発掘し切っていない。オリンピックの枠に収まるようなランナーではないし、ライバルでい続けてほしい。そして次のオリンピックに向けて動きだしてほしい。

 川内の練習パートナー希望を聞くと笑顔で答えた。

 藤原

 前から一緒に走ろうと話していたんですよ。ただ、混むので駒沢公園はやだよ、って。彼のやっているトレイルラン(リュックを背負って野山を走る)とか一緒にやってみたい。

 くしくも藤原の父は登山家。幼少期から野山に慣れ親しんだ。川内が拠点とする埼玉・秩父山系を舞台に、強力タッグが実現しそうだ。実業団に所属せず、ともに1人で活動する「市民ランナー」。2月の東京マラソン前には、お互いライバル視するあまり舌戦に発展。川内が「藤原さんがタイムを言わないので、僕は7分台と言います」と言えば、「それは(川内が宣言した)7分台が持ち上がるように言わなかったんだよ、川内君!」と返した。

 そしてこの日、藤原は川内の魂を受け継ぐかのように言った。

 藤原

 これまでマラソン人気を高めたのは川内君なんで。僕もマラソンを盛り上げたい。オリンピックでなく、その先にゴールがある。1人でもマラソンができるシステムを構築したいし、1つの題材として僕がアピールしていきたい。

 グレーのスーツに、日の丸を背負う決意を示す真っ赤なネクタイ。「五輪では2時間7分半を狙う。タイムにこだわる。ロンドンはタフなコース、そのタイムに順位も付いてくる」。今度は川内のように、はっきり記録を明言した。5月にはそろって仙台ハーフマラソンに出場予定。自らを「プロでなくプータロー」「エースでなくジョーカー」と称する異端児・藤原が、ライバル川内とともにロンドンに向けて闘う。【佐藤隆志】