大相撲夏場所(10日初日、東京・両国国技館)を4日後に控えた6日、幕内美ノ海(木瀬)が33歳の誕生日を迎えた。
記者は約10年間、紙面レイアウトに携わり4月から初の現場取材。大相撲担当が決まり、春巡業で可能な限りあいさつ回りをする中、美ノ海は春場所で左ひじを痛めて巡業を全休した。患部の状態も気になり、誕生日と重なったタイミングで、名刺代わりに制作した特別紙面を持参し、部屋を訪ねてみた。
稽古場には独特の緊張感が漂う。力士の息遣い、ぶつかる音、見守る親方衆の視線。現場に出たばかりの記者にとっては、その静けさにさえ圧倒された。美ノ海は申し合いを行わず、四股を中心に調整。左ひじの状態を確かめるように稽古を切り上げた。引き締まった表情に、本場所を目前にした力士の覚悟と、調整を一歩ずつ進める慎重さがにじんでいた。
だが、取材になると空気は一変した。誕生日の話題を向けると「もういい大人なので、うれしい感情とかないですよ」と照れた。柔らかな表情に背中を押され、持参した紙面をそっと差し出すと、目を細めた。「こんなこと、されたことない。これはうれしいです。ちょっと自分で飾るのは恥ずかしいので、母に渡すかも知れません」。土俵上で見せる厳しい顔つきとは対照的。おっとりした口調も穏やかな人柄を物語っていた。
33歳になり、視線の先にあるのはまだ見ぬ高みだ。22歳で入門。「関取になることを目標に10年は頑張ろうと思っていたので、もう目標は達成しちゃいましたね」と振り返る一方、言葉に満足の響きはない。「もう1段、2段と自分が目指す相撲の理想にたどり着きたい。それが出来れば新しい相撲の形や強さが見えてくると思うので。それを繰り返し続けることが大事だと思います」。節目の日に口にしたのは、達成感よりも理想を求める強い向上心だった。
静かな闘志は、はっきりと目に焼き付いた。浮かれず、焦らず、心を燃やしながら前を向く-。その姿勢は現場に出たばかりの記者にとって、大きな励みになった。
痛めた左ひじは約2週間の治療とリハビリでほぼ回復。夏場所については「出ます」と力強く明言した。入門11年目のベテランが土俵でどんな相撲を見せるのか。“入門1年目”の新人記者として、その一番一番をしっかり見届けたい。【山田遼太郎】



