<陸上:ロンドン五輪代表選考会兼全米選手権>◇24日◇米オレゴン州ユージン

 えっ、ロンドン切符の行方はコイントス!?

 五輪選考会を兼ねた陸上全米選手権で、前代未聞の決着方法が発令された。オレゴン州ユージンで開催された同大会の女子100メートルで、人気選手のアリソン・フェリックス(26)とジェネバ・タモー(22)が、1000分の1秒まで同じ11秒068で同着3位となった。異例の珍事に、米国陸連と米国五輪委員会が協議し、コイントスか再レースを2人に選択させる手続きを24日に発表。仰天のコイントス案まで飛び出す事態に、3番目のイスを巡る騒動は一気にヒートアップした。

 由緒正しき伝統ある大会が、違った形でヒートアップした。23日の女子100メートル決勝。当初は優勝したジーター、2着のマジソンに続き、タモーが自己ベストの11秒068で3位と発表された。だが、その後、1000分の1秒差で4位だったフェリックスが、タモーと同タイムと修正され、ともに3位。1秒間に3000コマを撮影できる高性能カメラ2台で分析したが結論は出ず、紛糾した。そして翌24日、全米陸連と全米五輪委員会が緊急協議し、導き出した答えは、耳を疑うものだった。

 コイントスか、1対1による再レース(ランオフ)-。全米陸連のジル・ギア広報官は「今大会(7月1日)が終わるまでに、どちらか選択してもらう」。夢の五輪をかけた決着がくじ引き?…。加えてタモー、フェリックスとも同じコーチに師事する「同門同士」というばつの悪さ。まさか、まさかの想定外の事態に、コーチのボブ・カーシー氏は驚きを隠せない。「いったいどこの誰がコイントスなんてやりたがるんだい?

 スーパーボウルを見に行って、長い延長戦の末に両コーチが呼ばれて『コイントスで決着したい』って言われたようなもの。誰がそんなの見たい?

 俺は絶対見たくないね」。

 フェリックスは04年アテネ五輪の200メートル銀メダリストで、世界選手権で同種目を3連覇したスター。競技力に加え、キュートなルックスで日本でも人気が高い。そのフェリックスと伏兵タモーは28日に始まる200メートルにも出場。30日の決勝レースでは、再び火花を散らす関係だ。そんな状況を踏まえ、カーシー・コーチは「たとえランオフを選択するにしても、選手の健康状態を保護すべき」とくぎを刺した。

 陸上に限らず、五輪の決着方式に「コイントス」が提案された事例は聞いたことがない。日本陸連に問い合わせたところ「前代未聞かどうかも分からない」と困惑気味に苦笑。そもそもコイントスとは、古代ローマが始まり。「賽(さい)は投げられた」の名文句で知られる軍師カエサルの硬貨で流行したという一説がある。「すべては(30日の)200メートルのレースが終わってから」とはカーシー・コーチの弁。どういう結末になるのか。本当に、賽は投げられた-。

 ◆コイントス

 コインを使って2者の勝敗を決める手法。2者が事前に表か裏かを宣言し、投げたコインの表か裏かで「勝者」を争う。よく知られるところでは、サッカーの試合でキックオフを決める場合に使われる。ちなみにコイントスの起源は古代ローマと言われ、一説によると、ローマの人々はコインを投げ、英雄軍人カエサルの横顔の面が出れば「勝ち」としたことに起因するという。

 ◆ほかの競技なら

 競泳で同タイム同着の場合、「スイムオフ」という対象選手同士の決着レースが行われる。昨年の世界選手権では、女子200メートル自由形の予選で上田春佳と伊藤華英が16位タイ。準決勝進出(16人枠)をかけて、珍しい日本人同士のスイムオフとなり、上田が勝って準決勝へ進出した。決勝の場合はそのまま順位が確定。

 ◆陸上全米選手権

 1888年にスタート。陸上のトラック&フィールド競技で、米国一を競う。毎年6月に1週間ほどの日程で行われ、五輪開催年は「一発勝負」の選考会となる。五輪参加A標準記録を突破している各種目の上位3選手が自動的に出場切符を獲得。