<名古屋ウィメンズマラソン>◇10日◇ナゴヤドーム発着(42・195キロ)

 昨年ロンドン五輪16位の木崎良子(27=ダイハツ)が、自己ベストを2分58秒更新する2時間23分34秒の好タイムで優勝。今夏世界陸上モスクワ大会の派遣設定記録(2時間23分59秒以内)を突破し、国内最終選考レースで代表決定第1号となった。残り2キロでディババ(エチオピア)を振り切り、日本女子マラソンでは初めて五輪→翌年の世界陸上の連続出場を決めた。

 何度も金言をくれたあの人は、コース3カ所で声をからしていた。その声援も耳に入らぬほど、木崎は集中していた。ただ、その父和夫さん(58)が2週間前にかけた言葉は、心に刻まれていた。「チャレンジするんだ」。4年連続箱根駅伝出場の父の言葉を、木崎は自分なりに解釈した。35キロ過ぎで野口が脱落。ディババとのマッチレースにケリをつけたのは、40キロ過ぎの給水所だった。

 木崎

 本当は最後の1キロでスパートする予定だったけど、父の言葉が頭にあって給水所でとっさでした。いつもの自分と違うスパートをやってみようと。給水も苦手そうだったし。

 両腕を高々と掲げ歓喜のフィニッシュ。両手で顔を覆い泣きじゃくると、林監督に抱きかかえられた。涙にぬれたくしゃくしゃの顔は、父の胸にうずめた。

 ペースメーカーが5キロ17分前後で機能し、風も穏やか。中間点の17度が最高の気温は高めだが、スピードが武器の木崎は苦にしなかった。ただし前夜は8時にベッドに就いたものの、緊張で午前3時半の起床時間まで一睡もできずじまい。朝食だけはとり仮眠を取ろうと酸素カプセルで30分、横になったが眠れない。だが米国合宿で「自信を持って臨める」と話すほど質の高い練習に裏付けされた自信は、スタートラインでよみがえる。「ここまで来たらやるしかない。何とかなる」。アフリカ勢が集団で走っても「ここで勝たないと世界に通用しない」と、心の中で常に「モスクワ!」と叫びながら走り抜けた。

 マラソンに費やすエネルギーの大きさから、五輪で完全燃焼し翌シーズンは抜け殻状態…も当然だ。現に日本女子マラソンで、五輪→翌年世界陸上の2年連続世界大会出場はない。悔しさを忘れず、木崎はこの殻を破り初めて連続世界切符を得た。「2時間20分ぐらいを目指したい」と林監督も後押し。余韻に浸るのはつかの間だ。「今度こそメダルに挑戦して、しっかり戦います」と話す木崎を、モスクワが待っている。【渡辺佳彦】

 ◆五輪→世界陸上の連続出場

 世界陸上が隔年開催となった93年以降、女子では木崎が初めて。男子では佐藤敦之(中国電力)が果たしている(08年北京五輪76位→09年世界陸上ベルリン大会6位)。また昨年ロンドン五輪6位の中本健太郎(安川電機)も、今夏モスクワ世界陸上代表が有力で2例目になりそう。ちなみに、日本女子マラソンで“逆パターン”の世界陸上→五輪の2年連続代表は過去に9人いる(欠場含む)。前年の世界陸上で五輪内定が出たり、勢いを持続して五輪切符獲得のパターンだ。

 ◆木崎良子(きざき・りょうこ)1985年(昭60)6月21日、京都府与謝野町生まれ。京都・宮津高から本格的に陸上を始め佛教大では07年ユニバーシアード女子1万メートルで2位。08年ダイハツ入り後は女子1万メートルで10年日本選手権2位、全日本実業団で優勝、5000メートルはアジア大会8位。同年1月の大阪国際女子が初マラソン。11年11月の横浜国際で優勝しロンドン五輪代表。自己ベストは5000メートル15分22秒87、1万メートル31分38秒71、ハーフマラソン1時間10分16秒。家族は両親と兄、姉。157センチ、43キロ。