<陸上:ダイヤモンドリーグ第7戦>◇30日◇英バーミンガム

 日本歴代2位の10秒01を出した桐生祥秀(よしひで、17=京都・洛南高3年)が、世界デビューで厚い壁を実感した。男子100メートル予選1組で登場。向かい風0・4メートルの中、10秒55で8人中8着。期待された9秒台はかなわず、初めての海外レースはほろ苦い予選敗退となった。

 走れども走れども、周りの外国勢は遠のいた。桐生にとって、初の海外レース。会場の周りで、観客に「ワンダーボーイ」と紹介された若武者の挑戦は、英国の澄み切った青空の下、見事に散った。「走っていて、勝てないと差を感じた」。体を振って必死のゴールも、その差は歴然だった。

 今大会のためにつくったオリジナルのユニホーム。右胸には、ピンクの文字で洛南高校の名前が誇らしげにあった。選手紹介で、桐生は、その名前を引っ張り、全世界にアピール。「この舞台で走れるうれしさをかみしめていた」と胸を張った。

 桐生は6レーン。隣の5レーンは、ロンドン五輪400メートルリレーの金メダリストで、今大会参加16選手中、最速の9秒78を持つカーターだ。スタートから15歩。前傾姿勢から顔を上げた時点で、すでに差がついた。「顔が上がった瞬間に、勝てないと思った」。その後も「全く伸びなかった」と、参加選手中の最下位に終わった。

 取りたてのパスポートを携え、関西空港で1万円だけを両替して飛行機に乗った。「強豪選手を生で見て『うわーっ』と思ってみたい」と無邪気に話していた。最初に名前を覚えた海外選手は07年の世界選手権大阪大会で優勝したタイソン・ゲイ(米国)。わずか6年前のことだ。

 惨敗にも、10秒01からわずか2カ月で、世界最高峰の大会に出場した17歳は決してひるまない。報道陣への最初の言葉は「今後に、この経験は必ずつながる」。大会は桐生の隣5レーンで走ったカーターが制した。この敗戦も国際舞台での貴重な経験のひとつ。そしてこの先、目指す大舞台は、8月の世界選手権(モスクワ)だ。夢に見るウサイン・ボルトとの勝負で、この悔しさをぶつける。【吉松忠弘】

 ◆ダイヤモンドリーグ

 国際陸連が2010年に新設したトラック、フィールド種目の世界最高峰シリーズ。欧州、北米、アジアで14大会が行われる。欧州の6大会で構成されたゴールデンリーグが前身。出場枠が少ないため、参加者は世界のトップ選手に限定される。賞金は各大会の優勝者が1万ドル(95万円)、ポイントの合計で争う年間王者は4万ドル(380万円)。日本の大会は含まれていない。