リオデジャネイロ・パラリンピック競泳女子の一ノ瀬メイが、全8種目を泳ぎ切った。個人種目での決勝進出はならなかったが、19歳の伸び盛り、この経験は20年東京大会への貴重な血肉になったと思う。

 英国人の父と日本人の母の間に生まれた彼女は、生まれつき右肘から先がない。幼少期に地元京都で水泳を始めたが、障害を理由にスイミングスクールの入会を断られたという。ずっと昔の話ではない。ほんの10年ほど前のエピソードである。日本の障がい者に対する偏見が、いまだ根強いことを表している。

 今大会は海外の10代の選手が表彰台ではしゃぐ光景が珍しくない。しかし、日本の若手は決勝の壁になかなか太刀打ちできない。「選手層が薄い」「強化費不足」「指導者がいない」など、強化サイドの理由はさまざまある。だが、そもそも障がい者が健常者と差別なくスポーツができる環境が整っていないことに要因があるように思う。

 8月に日本パラリンピアンズ協会が、今夏に実施したパラリンピック選手の環境調査の結果を発表した。驚いたのは日本代表選手でさえ5人に1人が施設利用を断られた経験があると回答したことだ。理由は、車いす競技では「床にキズがつくから」といった回答が多く、ほかに「危ない」「ケガをした場合の保障ができない」などもあった。

 20年東京大会決定から3年。パラリンピックの認知度は急上昇した。ただ、あの激しい車いすラグビーの合宿に体育館を貸し出している渋谷区のような自治体がある一方、社会全体ではまだまだ「弱い」「1人でできない」「危険」といった先入観で障がい者を見ている施設関係者も少なくないのだろう。

 所管が厚労省から五輪と同じ文科省に移り、パラリンピック選手の国立スポーツ科学センター(JISS)の利用も可能になった。日本パラリンピック委員会では20年東京大会で金メダル22個以上を目標に掲げている。しかし、トップ選手だけを集中強化しても、普及には役立つが、環境が伴わなければ裾野は広がらない。

 4年後へ向けて日本パラリンピック委員会と各競技団体が協力して、選手発掘や普及にさまざまな取り組みをしている。だが、本当の意味で障がい者のスポーツ環境を変えるには、何よりもまず健常者が心のバリアーを取り払う必要がある。【五輪・パラリンピック準備委員 首藤正徳】