<F1:日本GP>◇予選、決勝◇10日◇三重・鈴鹿サーキット◇1周5・807キロ×53周◇観衆9万6000人

 ザウバーの小林可夢偉(24)が攻撃的走りでオーバーテーク(追い抜き)ショーを見せ、1時間31分31秒361で予選14番手から今季6度目の入賞となる7位に入った。追い抜きが難しい現代のF1で計5度も披露。会場に詰めかけた10万人近いファンに、モータースポーツの醍醐味(だいごみ)を存分にアピールした。優勝はレッドブルのセバスチャン・フェテル(ドイツ)で、日本GP2連覇。年間総合王者争いでも、2位と同ポイントの3位に浮上した。

 残り15周。ピットで規定のタイヤ交換を終え、12位でレースに復帰した小林が猛プッシュを開始した。新品のソフトタイヤはグリップ(接地力)が強く、前を走るトロロッソのアルゲルスアリを追い詰める。44周目のヘアピンカーブでアウトから仕掛けた。インの相手が曲がりきれずに接触。側面の部品が破損したが、強引に切り抜けて先行。激しいバトルに観客の声援も最高潮に達した。

 この日の勝負どころはヘアピンだった。「ボクらのポイントはあそこしかなかった」(小林)。直線速度の遅いザウバーのマシンでは、相手の速度が落ちるポイントがねらい目。恐怖と戦いながらギリギリまでブレーキを遅らせ、相手より先にコーナーに飛び込んで抜く。技術と度胸で相手を圧倒。最後まで前のマシンを狙って計5回の追い抜きを見せた。「最高のレース、自分のベストのレースをしたかった。最後まであきらめる気はなかった」と言葉に力を込めた。

 鈴鹿サーキットにはつらい思い出があった。03年の育成レース「フォーミュラ・トヨタ」の年間総合優勝がかかった最終戦で、コースアウトをしては追い上げる荒いレースをした結果、エンジンを壊した。ライバル中嶋一貴の優勝を、唇をかんでみるしかなかった。「悔しいと言うより、自分のバカさ加減に気がついた」。その後の欧州留学で、度胸と速さだけの力任せのレースをやめ、ミスを犯さない正確さを身につけた。7年ぶりの日本でのレースで、成長した姿を見せ、過去の自分にもリベンジした。

 日本でのF1人気復活を目標に掲げ、活動を続けてきた。優勝したフェテル以上の声援を受け、日本のファンに日本人エースの誕生を印象づけた。「見て、面白いと思ってくれたら良かった。できるだけF1を知らない人にも興味を持っていただければ」。不況で冷え込んだモータースポーツ人気に再び火を付けたい。熱い志を感じさせる走りだった。【来田岳彦】