金字塔を打ち立てた。ソチ五輪王者の羽生結弦(20=ANA)が、世界歴代最高の合計322・40点で優勝した。3度の4回転ジャンプを決めるなど、前日のSPに続きフリーでも歴代最高の216・07点をマーク。パトリック・チャン(カナダ)が13年に出した最高得点を27・13点も更新する史上初の300点超えを達成した。2位との差もGPシリーズ史上最大の歴史的大勝だった。進出が決まったGPファイナル(12月、バルセロナ)で、3連覇を狙う。

 誰にも超えられない。羽生が322・40点という驚異的な得点を長野のリンクに刻んだ。「ドン」という鼓の音で、両手を開き会場を平安の世界へといざなう。冒頭の4回転サルコー、4回転トーループを美しく決めると、スピード感たっぷりのスピンとステップを見せる。後半の連続ジャンプはこれまでの4回転-2回転ではなく、4回転-3回転に難度を高め成功。組み込まれたすべてのジャンプを決め、息をきらしながら4分39秒を滑りきった。大記録の確信。すぐに観客席へ1本指を突き刺した。

 自分に大きなプレッシャーをかけて臨んだ。2位に終わったGP初戦のスケートカナダ杯。悔しさの中でNHK杯へSP、フリーともにジャンプの難度を高めることを決めた。失敗すれば、GPファイナルを逃すかもしれない挑戦。それを「血のにじむような努力」で完璧に仕上げてきた。

 この1カ月、普段の氷上での練習から自宅に帰ってからも、自室で「エア演技」を繰り返した。後半にミスがかさむ4回転に思い悩んでいると、同門の世界王者フェルナンデスに「Just do it(ただやるだけだ)」と背中を押された。「去年出来なかったことが出来るだけでは成長とはいえない」。自分で自分を奮い立たせた。

 前日にSP歴代最高をマーク。歴史を塗り替える演技を自分に期待し、緊張に襲われた。支えとなったのはソチ五輪の経験だった。

 羽生 ソチでは終わった瞬間に金メダルがなくなった。と思うと同時に自分が金メダルを狙っていたことに気づいた。それが、今回すごく生きた。会場に来る前から、200点超え、300点超え、ノーミスしたいと思っている。それを認めてあげられた。少しでもコントロールできた精神状態の中で出来た。

 プレッシャーを乗り越えた先のノーミスの演技。充実感があふれていた。

 長野五輪でアイスホッケーが行われたリンク。「オリンピックのマークが常に見えている中で次の五輪も連覇するためにはもっと成長しないといけない」。王者の誇りを胸に滑った。

 これで、SP、フリー、総合ともに歴代最高保持者となった。「今度は自分の点数というプレッシャーが確実にかかってくる。それがまた壁だと思うし、それを越えるために努力していきたい」。今日の自分を超えるのは、自分しかいない。【高場泉穂】