泥酔した教え子の大学女子柔道部員に乱暴したとして、準強姦(ごうかん)罪に問われたアテネ、北京両五輪の柔道金メダリスト内柴正人被告(35)の控訴審判決で、東京高裁は11日、懲役5年とした1審東京地裁判決を支持し、無罪を主張する弁護側の控訴を棄却した。弁護側は即日上告した。判決後、内柴被告は「検察側の証拠や証言におかしな点が数多くある」などとコメントを出し、今後も争う姿勢を示した。

 「本件控訴を棄却する」。金谷暁裁判長の声が廷内に響いた。内柴被告は直立不動のままだった。その後約20分間、判決理由の朗読を座って聞きながら、うなだれたり、遠くを見たり、天を仰いだり…。朗読が終わり、裁判長に起立を促された。「判決の理由は分かりましたね」と聞かれたが、無言。不満足の意思を明確に示した。

 裁判長は「無罪を主張する被告の供述は不合理で信用できない」と述べ、懲役5年の1審判決を支持した。「柔道の練習後に深夜まで飲酒した被害者が、事件当時酔いつぶれていたことは明らかだ」と指摘。被告に背負われてカラオケ店からホテルに戻った後、目を覚ますと乱暴されていたとの被害者証言は信用性が高いと判断した。

 今回の裁判では、「合意があった」とする被告の供述と、「酔って寝ている間に乱暴された」との被害者の証言が食い違い、どちらが信用できるかが争点だった。弁護側は「事件後も2人で過ごしており、被害者の行動として不自然だ」などと主張したが、「指導者である被告に渋々従っただけで、不自然ではない」と認めなかった。

 内柴被告は今年2月の1審判決後、閉廷前に「(控訴)させてもらいます」と宣言していた。今回は閉廷約2時間後、闘い続ける姿勢を表明。「検察官から出された証拠や証言に、素人でも分かるようなおかしな点が数多くある。それでも控訴が棄却されるのは納得できない。上告して自分の無実を訴えたい」とコメントを発表した。この日の格好は、黒のカーディガンに白のワイシャツ、紺ズボン。傍聴席75席を求めて232人が集まった。

 判決によると、内柴被告は11年9月、当時コーチを務めていた九州看護福祉大(熊本県玉名市)の女子柔道部の合宿に同行し、都内のホテルで泥酔していた部員に乱暴した。

 ◆内柴正人(うちしば・まさと)1978年(昭53)6月17日、熊本県合志市生まれ。9歳で柔道を始める。国士舘大-旭化成。得意技はともえ投げ。04年アテネ五輪、08年北京五輪の男子66キロ級で2連覇。10年10月に現役引退。九州看護福祉大の元客員教授。

 ◆上告

 控訴審判決に不服がある場合、被告人、弁護人、検察官は上告できる。適法な上告理由は憲法違反、判例違反などに限られている。当事者は上告を高裁に14日以内に申し立てる。上告審は書面審理で行われる。死刑判決の事件や原審破棄の可能性がある場合、口頭弁論が行われる。最高裁は、上告棄却の決定、上告棄却の判決、原判決の破棄、1審への差し戻しを行うことができる。

 ◆元東京地検特捜副部長で弁護士の若狭勝氏の話

 控訴審初公判(10月4日)で新証拠も採用されず即日結審しており、1審のまま懲役5年の実刑判決のままの控訴審判決が出た。これはつまり、控訴審も内柴被告の主張を全く相手にしていないということだ。控訴審で1審と逆転判決が出る割合は1割以下だ。上告しても、最高裁が上告を受け付けない可能性が高いと思う。具体的には、弁論を経ない上告棄却判決になる可能性が高い。最高裁に上告ができるのは、憲法違反や憲法解釈の誤り、判例違反があった場合に限られているからだ。このほか、法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる事件は受理できるが、難しいだろう。もし最高裁に行ったとしても、最高裁で逆転判決が出る割合は0・1%以下といわれている。