横綱朝青龍(29=高砂)が強制引退に追い込まれた。初場所中に知人男性に暴行したとされる問題で、日本相撲協会は4日、東京・両国国技館で理事会を開き、処分を協議。緊急に朝青龍を呼び出して事情聴取したあと、解雇も辞さない構えで引退を勧告した。現役続行を望んでいた朝青龍だが、最悪の事態を避けるため、しぶしぶ勧告を受け入れて引退を表明した。史上単独3位の25度目の幕内優勝を果たした初場所千秋楽から11日。品格を問われ続けた「お騒がせ横綱」が、とうとう角界を去ることになった。

 事実上の「解雇」だった。突然の引退会見で、朝青龍は「まさか、こういうことにのみ込まれるとは頭になかった」と口にした。緊急呼び出し後に引退勧告。史上単独3位となる25度目の優勝を果たした初場所から、2週間もたっていない。29歳4カ月。「お騒がせ横綱」は昭和以降6番目の若さで土俵を去った。余力を残しながら、不祥事で身を引くしかなかった。

 初場所中に起こした「泥酔暴行騒動」。調査委員会を立ち上げていた協会は、この日の理事会を「経過報告」で終わらせるつもりだった。だが、横綱審議委員会(横審)が黙っていない。理事会前に鶴田卓彦委員長(元日本経済新聞社相談役)が、横審の総意として「引退勧告」を武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)に伝えた。横審が設置されて60年で初の引退勧告だった。

 理事会も方向性が変わった。元警視総監の吉野準外部監事を中心に、厳しい意見が相次いだ。「引退」を勧告するか、「解雇」にするか。午後の2回目の理事会に、師匠の高砂親方とともに朝青龍を呼び出した。「弁明してもらい、いろんな事情を話してもらった」と武蔵川理事長。「暴行はしていない」の言い分は、通らない。朝青龍の目の前で多数決が取られた。満場一致で引退勧告。解雇も辞さない強い態度で、朝青龍に通告した。

 朝青龍は先月16日未明、東京・西麻布で暴行騒動を起こした。本場所中の深夜に泥酔したうえ、当初は個人マネジャーを被害者とした。その後、知人の一般男性と判明。示談が成立したものの、横綱としての品格や虚偽報告は度を過ぎていた。5度の厳重注意と2場所出場停止。引退への猶予はもうなかった。言い逃れできると思ってついた「ウソ」の代償は、大きかった。

 関係者によれば、前夜の朝青龍は知人に「(暴行騒動を報じた)週刊新潮を訴えてやる!」「新聞も散々書きやがって!」と息巻いていたという。この日、国技館に呼び出された際には、個人マネジャーが被害者の「嘆願書」を公開。最後まで現役続行の道を探していたが、進退窮まった。

 朝青龍は、高砂親方と別室で進退を相談した。「多少は(悔しさが)あるが、この道しかなかった」。退職金が払われない可能性がある「解雇」でなく、「引退」は1500万円を超える養老金などがもらえる。理事会に戻った朝青龍は、貴乃花理事らを前に「お世話になりました」と一礼。朝青龍に近い関係者は「はめられた」と悔しそうにつぶやいた。自らがまいた種とはいえ、横審と理事会に寄り切られ、引退を決断するしかなかった。

 日本国籍を持っておらず、協会には残れない。「しばらくは、ゆっくり休みたい」。現在は秋場所後の10月に「引退相撲」を計画するが、まずは近日中にモンゴルへ帰国する予定だという。「自分としてのけじめなんで」と涙したが、暴行や騒動に対する説明や謝罪はなかった。土俵内外で続けてきた数々の悪行。1つの時代を築いた朝青龍は、追われるように土俵を去っていった。【近間康隆】