日本相撲協会は10日の理事会で、泥酔暴行騒動の責任をとって引退した元横綱朝青龍関(29=本名ドルゴルスレン・ダグワドルジ)に、1億2000万円(推定)の特別功労金を支給することを決めた。元横綱貴乃花の1億3000万円に次ぐ、史上2番目の高額になった。退職金3685万円の減額もなく、引退後に支払われる懸賞金の協会積立金と合わせて額面で約3億4000万円を支払う。警視庁による暴行騒動の捜査も継続している中、世間の常識と懸け離れた大甘裁定が下った。

 理事会では議長を務めた武蔵川理事長が、史上3位の25度優勝の実績などから「1億5000万円の実績はある」とした上で「問題も起こしている。出すべきか」と理事に意見を求めたという。複数の理事から「貴乃花よりも出すべきではない」など、減額を求める声が噴出。協議は紛糾したが、最後は貴乃花を1000万円だけ下る、1億2000万円で決着した。

 確かに1人横綱を21場所務め、大相撲人気に貢献した。しかし、初場所中に泥酔暴行騒動を起こし、横綱審議委員会から初の「引退勧告」を出されての「引責」引退で、大相撲のイメージを著しく失墜させた。さらに前日9日には警視庁麻布署の聴取を受けた被害男性が「殴られた」と証言したことが判明したばかりで、今後、立件される可能性もある。その状況下での史上2番目の特別功労金決定は、世間の常識からは懸け離れていた。

 ある理事会メンバーは「今回の決定は(暴行騒動の)疑惑分を差し引いた金額」と明かす。つまり今後、逮捕された場合も考慮してはじき出した金額だったという。かつて部屋のおかみさんらに手をあげて失跡した元横綱双羽黒には、特別功労金は支払われなかった。今回は一般人を巻き込み、さらに被害者のすり替えなど社会問題化した。事態はより深刻だったはずだ。

 理事会後の協会の対応も不可解だった。金額は非公表とし、各理事は一様に口を閉ざした。「忘れた。プライベートなことなので」(放駒理事)。個人情報保護法に基づき、05年から特別功労金を公表していないという。しかし、所管する文科省競技スポーツ課は「個人情報保護法で公表できないということはない」と見解が異なる。同課にも「公表すべき」という電話が数件あり、「公表しなさいということはないが、今回は反響が大きいので」と今後の公表へ含みを残した。

 正規の退職金については議題にも上らなかった。規定通り3685万円が支給される。さらに懸賞金の協会積立金は1億8065万円になる。これらを合わせると、元朝青龍関が引退で得るのは約3億4000万円。財団法人として、税優遇などを受ける団体として「甘い」と批判されても仕方がないだろう。