大相撲の横綱白鵬(25=宮城野)が8日、日本相撲協会の対応に「物言い」をつけた。7日に、名古屋場所(11日初日)の幕内優勝力士に贈られる天皇賜杯など、優勝旗以外すべての表彰の辞退を決定したことを受け、出げいこで訪れた名古屋市内の陸奥部屋で「あまりにもやりすぎ」ともらした。逆風の中で出場する力士の思いを代弁したものだが、現役横綱が協会の決定に不満を口にするのは異例のこと。さらに野球賭博問題が警察の一斉捜索にまで及んだ日本の現状を憂い、「自分たちの手で国技をつぶす気なのか」と危機感をあらわにした。

 けいこを終えた白鵬は、立ち止まって語り始めた。2日連続での陸奥部屋への出げいこ。報道陣との接触を避けるように、わずかにコメントした前日とは一転。賜杯をはじめ、昨年は23もあった名古屋場所の表彰が、優勝旗授与の1つとなった現在の心境をゆっくりと表情も変えず語った。

 白鵬

 昨日知りました。我々全力士は、天皇陛下の賜杯をいただくため一生懸命けいこに励んでいる。そういう意味で心から残念に思います。日本の横綱として、あまりにもやりすぎではないかと思います。

 冷静な口調が、ただの思いつきの話ではないことを証明していた。元朝青龍関が暴言を吐いて、横綱の品格を問われることはあったが、優等生といわれる白鵬が協会の決定に不満をもらすのは異例のことだった。

 野球賭博は許されることではない。自らも花札を賭けていたことを謝罪した。だが当初、野球賭博以外の賭博については、名前を公表しないとしていたにもかかわらず、白鵬だけが公表された。その後もNHKの中継中止、相撲部屋への一斉捜索と、場所前になっても騒動は収まらず、力士も土俵に集中できない状況。その上賜杯などの表彰まで奪われた。一連の賭博問題で後手に回った相撲協会の対応のまずさを、全力士を代表して指摘した。

 このままでは「国技」の看板も揺らぐと危惧(きぐ)している。世論が一斉にバッシングする日本の姿に違和感を覚えたのかもしれない。同時に世間の相撲離れ、衰退していく姿を敏感に受け取っていた。

 白鵬

 NHKの放送は全国だけでなく、世界中で楽しみにしている方がいる。日本だけの問題ではなくなってくる。何か、自分たちの手で国技をつぶすのではないかという気がします。この国唯一の国技を。

 白鵬の切実な声にも、相撲協会の村山理事長代行はノーコメントだった。愛知県警本部など関係各所へのあいさつ回り後、白鵬の訴えについて質問されると、聞かなかったことにして別の話題に切り替えた。現役時代に22度優勝した貴乃花親方(元横綱)も表彰辞退には「(警察が)捜査しているし、粛々とやっていくべき。現役力士はしこ、すり足、てっぽう。体を鍛えることに集中して場所に挑んでほしい」と話すにとどめた。

 名古屋場所で白鵬は、史上初の3場所連続全勝優勝を狙っている。1人横綱となってから1敗もしていない。土俵上の責任は果たしているだけに「誰か早く横綱になってほしい。気持ちを分かち合いたい」と、土俵外の重責も1人で抱える本音を漏らした。現役の声が届くのか、国技の威信を取り戻せるのか。白鵬が相撲協会へ警鐘を鳴らした。