<大相撲名古屋場所>◇10日目◇20日◇愛知県体育館

 元大関琴光喜関の解雇で揺れた佐渡ケ嶽部屋が、再興へ向け、元気を取り戻してきた。部屋頭の大関琴欧洲(27)は、連敗をストップして、待望の勝ち越し。謹慎中で外出できない佐渡ケ嶽親方(42=元関脇琴ノ若)がこの日午前、部屋に理髪師を呼んで散髪するなど、験直しが早速効果を発揮した。ショックを乗り越え、反省しつつ、部屋が一丸となって戦っている。横綱白鵬(25)と前頭13枚目の豊真将(29)が全勝を守った。

 7連勝のあと2連敗していた琴欧洲が、3日ぶりの白星を挙げた。魁皇を上手投げで仕留め、優勝戦線に食らいついた。「思い切りいけました」。NHKの生中継がなく、部屋で悶々(もんもん)とするしかない師匠の佐渡ケ嶽親方を安心させた。

 部屋の関取3人がそろって負けた9日目の夜、佐渡ケ嶽親方は、験直しを決断した。髪を切る。元琴光喜関解雇の影響で謹慎中のため、宿舎、けいこ場、病院以外は外出できない。朝げいこ後、なじみの理髪師を部屋に呼び、土俵脇の上がり座敷で散髪してもらった。

 場所中は朝6時に起き、夜9時には寝る毎日。相撲中継がなく、1歩も外に出られない。「慣れるもんじゃないですね」。持病の高血圧で、病院に通う日もある。場所前には、若い衆の実家に電話し「大丈夫ですから。安心してください」と説明を続けた。「ウチの子を、よろしくお願いします」と言われるたびに、責任を感じた。

 毎日、午前11時すぎには序ノ口の力士が部屋に帰ってくる。そこで、勝敗の報告を受ける。「1人1人が、頑張ろうという気持ちがいい。勝った負けたは、顔を見れば分かる。若い衆には言うんです。『お客さんが喜ぶ相撲を取れ』って。相撲を見て、応援しようという気になってくれたら、うれしいですね」。

 関脇琴奨菊は、賭博経験を自己申告したが、軽微なものとして処分の対象になっていない。それでも場所前、名古屋の数人の支援者に謝罪の手紙を書いた。「悪いことしたと思って…。裏切ってしまった。相撲で勝つことが恩返しと思っています」。本来の相撲は取れていないが、奮闘を続けている。

 この日、琴欧洲だけでなく、序二段の琴金丈、琴明山、三段目の琴柏谷、幕下の琴国が勝ち越しを決めた。それでも、夜の街に繰り出す者はいない。千秋楽のパーティーも自粛する。佐渡ケ嶽親方は「まず、無事に場所が終わってほしい」と打ち明ける。必死の土俵は、あと5日続く。【佐々木一郎】