ひとつの声によって試合は大きく動く。巨人1点リードの5回裏、2死一、二塁で京田が二塁への内野安打。打球処理した吉川は、一塁ベースカバーの先発畠に転送する。京田のヘッドスライディングで判定はセーフだった。

ここで私は畠に向かって必死に叫ぶ吉川の声に注目した。畠はマウンドから一塁へ走り込み、その後もホームに背を向けたまま。ベースに入ることに精いっぱいの様子で、三塁走者阿部を気にする気配は感じられなかった。それをあらかじめ予期していたのか、吉川は必死に本塁方向を指さしながら畠に叫んでいた。この声で畠は振り返り、オーバーランの阿部が慌てて帰塁。あと1歩でも2歩でも畠がボールを持ったままで動いていれば、阿部の生還を許した可能性があった。

この場面の直後、2画面中継ではロッテ-楽天戦で巨人吉川とは正反対の連係プレーが映った。5回表、1点リードの楽天は無死一塁から太田が送りバント。一塁線へのバントに一塁手レアードの対応が遅れる。一瞬、先発石川、レアード、捕手佐藤都の動きが止まった。球場にいないので誰かは声を出していたかもしれず、詳しい状況はわからないが、少なくとも声の確認による連係は機能していなかった。結果は内野安打。無死一、二塁とピンチは広がり、この回5失点。

声を出すことの大切さを、この2つのプレーがあらためて教えてくれた。レベルの高いプロの世界でも、調子に左右されないプレーがある。全力疾走、声を出すこと、確認作業。誰でも確実にやろうと思えばできることだ。

吉川は16日の阪神戦でショートに入り、マルテの打球処理後にふわりとした中途半端なワンバウンド送球が失点につながり、途中でベンチに下がっている。それが、この試合では無駄な失点を未然に防ぐ声が大きな意味を持った。試合は1-1の引き分けとなったが、先発大野雄に苦戦した展開からすれば、吉川が防いだ1点は大きかった。反対にロッテは後半に追い上げただけに、悔やまれるワンプレーだった。

球場に出向けないから2画面で試合に集中していたが、こうした「声」にまつわる対照的なプレーが、ほぼ同じ時間帯に起きたのは印象的だった。(日刊スポーツ評論家)

巨人吉川尚(21年4月撮影)
巨人吉川尚(21年4月撮影)