全国高校野球選手権大会が100回大会を迎える18年夏までの長期連載「野球の国から 高校野球編」。名物監督の信念やそれを形づくる原点に迫るシリーズ2「監督」の第3弾は、日大三を率いる小倉全由監督(60)です。

 関東第一と日大三を率いて、甲子園春夏通算19回出場で、通算32勝。01年夏、11年夏に全国制覇し、強打の日大三を高校野球史に刻んだ名将の物語を、全5回でお送りします。

 1月12日から16日の日刊スポーツ紙面でお楽しみください。

 ニッカン・コムでは、連載を担当した記者の「取材後記」を掲載します。

 取材に訪れた12月上旬、日大三・小倉全由監督(60)は、大学の合格報告に訪れた3年生に笑顔で尋ねた。「おめでとう。良かったな。彼女には報告しなくていいのか?」。3年生から「いえ…。彼女いないです」と返され、「ほんとかよ? いい顔してるのになぁ」と笑った。4月に61歳を迎えるが、学生との距離は監督に就任した「24歳の時のままだ」と話した。

 小倉 自分は生徒と距離なんか感じたことはないですね。距離って、指導者が勝手に作っちゃうものなんじゃないかなと。自分はあの時から、そこは変わってないですね。

 結婚する時、就職を決めた時、悩んだ時。人生の節目が訪れる度に、「小倉チルドレン」はグラウンドを訪問する。一昨年は、海上保安庁で勤務するOBが合宿所に訪れ、選手に力説した。「俺たちの訓練は命懸け。そこまでやらないと、人は救えないし、自分も死ぬ。でも、ここの強化合宿を経験したら、怖いものなんてないから」と言って、選手を激励した。

 小倉 うちは何かあれば、みんなグラウンドに帰ってくる。『監督、僕の奥さんです』と紹介してくれる時はうれしい瞬間です。

 毎年12月末から2週間、午前5時半から午後6時まで実施される「強化練習」は、「OB会」かのようにOBが次々と訪れる。自分たちも現役当時に流した汗、涙を思い出し、活力に変える。小倉監督は「あの時と変わってないなと思って、初心に帰るんだと思います」と話した。

 30年以上の監督生活を夢中で駆け抜けたのだろう。小倉監督は50歳後半を迎えた頃、自分の年齢に初めて気付かされた。指導者講習会などに呼ばれ始め、連盟の幹部らと世間話。「薬の話とか、老化の話を聞いた」時に、「あっ、自分って、もうそんな年なんだと知った」と苦笑した。

 最後に、私は尋ねた。「小倉監督にとって、高校野球とは何ですか?」。

 小倉 自分にとって、高校野球=甲子園。優勝しても、何をしても甲子園。憧れの甲子園なんです。

 その目の輝きが、全てを物語った。【久保賢吾】