ウエスタン・リーグの開幕間近。1軍のペナントレースに先駆けて3月16日にスタートする。ファームの勝敗はさほど問題にしないが、選手を育てていく上では、勝ち試合のそれぞれの場面によって何をすべきか叩き込んでいくのは大事なこと。勝ち負けがすべての1軍へ昇格したときには必要になる。ファームには矛盾したことが多々ある。若手の育成が優先するか、それとも1軍から落ちてきた選手の復調に重点を置くか。その時点での状況によるが、さて今季の阪神。2軍監督が掛布から矢野にバトンタッチされた。結果はどう出るか。OBとしてはいろいろな角度から見ていきたい。

 少々重苦しいムードだった鳴尾浜球場に、植田、島田、熊谷が加わった。言い方は悪いかもしれないが、やっとファームらしくなった。私の古い固定観念かもしれないが、中堅クラスの伸びしろの少ない選手を見ていても張り合いがない。やはり、若手のピチピチした生きのいい選手がいないとファームではない。楽しみができた。矢野監督も「そうですね。若い選手が来ましたし、彼らもいい素材です。特に、足という特徴を持っていますから楽しみです。いいところを伸ばしていきたいですね」という。確かに3選手とも足には定評がある。植田は昨年すでに実証済み。今、鳴尾浜球場で3人とも出塁するやダイヤモンドを所狭しと走り回っている。

 そう、島田といえば中学時代陸上部に所属。現在男子100メートルの日本記録保持者・桐生祥秀に勝った俊足の持ち主だという。ただ、足が速いだけでは盗塁はできない。いわゆる“3S”スタート、スピード、スライディングはもちろんのこと、相手投手のクセを研究しなくては走れない。大いに苦労することだね。まずは盗塁を狙える選手になれ。

 阪神は昨年、一昨年と若手がこぞって成長した。中谷は1軍に定着、20ホーマーを放ってアピールした。大山が三塁の定位置を手中にしようとしている。糸原がいる。高山もいる。そこへ、北條、陽川、植田が控えている。他にも上本がいて俊介が頑張っている。ファームにも昨シーズン代打で活躍した伊藤隼がいて荒木、今成、板山といった1軍を経験した選手もスキあらばと狙っている。まだ1軍メンバーが決まったわけではない。従って2軍のメンバーも決定していない。現状では方針も立てにくいが「各自のそれぞれが持っているいいものを出せるように指導していきたい」矢野監督である。持ち味が発揮できる育成法を打ち出している。

 練習試合を見ていて一瞬「アッ」と思わせる方針も見せてくれた。2回、いや3、4回見ただろうか。攻撃時である。その回の先頭打者である。カウント3-0、いわゆるノースリーからヒッティングに出た。セオリーからいけば四球の確率が高い。まずは1球待つのが定石だが、それをあえて打って出た。その意図を浜中バッティングコーチに聞いてみると「結果はどうなるか分からないが、矢野監督の意向でやってみることにした。オープン戦だけだと思いますけど」だったので、矢野監督にも話を聞いてみた。「イヤッ。公式戦でもと思ってはいますが……。それというのも、今のファームの選手にはノースリーから打たせるような選手はいないかもしれませんが、ゲーム展開によってはノースリーから打っていく可能性もある。だから、心構えとして『打っていくかも』の気持ちを持っておくのも必要だと思いましてね。やっぱりゲーム展開によりますかね」積極性を前面に打ち出す監督らしい発想。逆説的な考えも面白い。注目してみたい。

 セオリーを無視した方針があれば、鳴尾浜球場に新兵器も登場した。その名をトラックマンと称して、ピッチャーが投げる正確な球速。球の回転具合、例えば球が真っすぐ回転しているか、それとも斜めかシュート回転か。そして回転数。その日の投手の調子を見たり、場合によっては投げた球によって故障も見抜く可能性もあるという。甲子園球場と連動した操作ができる機械が新設された。野球界、本当に進化している。果たして戦力となるか。これまた注目したい。今年もファームを追っかけます。よろしく--。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)