つい先日、興味深い記事を読んだ。ヘッドコーチの平田勝男がテレビにゲスト出演した際、2年目のドラフト1位、森木の起用法に言及。今季は先発ではなく、後ろで投げる可能性がある、と語ったのだ。

これは平田の私見? いやいや、平田はこのあたりの計算ができる男であり、自分の考えをテレビで明かすようなことはしない。事前に岡田彰布とそういうプランを検討しているのは間違いない。岡田と平田の2023年シーズン、最初のプランニング。これはこれで楽しみとなる。

沖縄キャンプまでカウントダウンに入った。ここから岡田の動きは、大きな偏りを見せる。沖縄で岡田はどう動き、どう見守るのか。答えはひとつ。「ブルペン」。ここが岡田の定位置になる。

2004年、前回の監督就任のキャンプ初日。岡田に「歩数計」を渡した。新監督の実働初日。どれほど動くのか。これを知りたかった。岡田は了解してくれて、腰につるし、球場を去る際、手渡してくれた。さてさて何歩、刻んでいるか。きっと1万歩など軽く超えていると思っていたら、意外なほど数は伸びていなかった。

これは次の監督、真弓明信にも、和田豊にもお願いしたのだが、2人より岡田のカウントはかなり少なかった。「そらそうよ。ブルペンにずっとおったから、少ないはずよ」。岡田もわかっていた。ブルペンで投手陣を見る。キャンプのテーマを決めていたし、守りの野球を掲げる岡田らしい動きであった。

新監督、久しぶりの復帰となれば、何もかも把握したいものだし、キャンプではメイングラウンド、サブグラウンド、そしてブルペンと時を惜しんで動き回る。これが普通なのだが、岡田は違う。定位置はブルペン。これを決めている。朝、全体のアップがあって、キャッチボールが終わったら、岡田はノックバットを持って移動を開始する。目指すはブルペン。捕手の後ろに座る。そこから始まる投手陣の投げ込みを見つめる。キャンプでは多くの投手が入れ替わりに投げる。ベテラン、中堅、若手と、ピッチングは延々続く。

そこに球界OB、球団OBが姿を見せ、談笑となるけど、視線は投手陣から外さない。それの繰り返しで、時間はアッという間に過ぎていく。どうりで「歩数計」は止まったままだ。動かぬ監督、ブルペンこそがキャンプでの最重要スペースと決めている。今年もまた岡田は同じ動きをルーティンとして、ブルペンの真ん中に座っているに違いない。

特に今年は見るべきものが多い。先発陣はどうするか。青柳、伊藤将、西勇らは安定勢力だが、ローテーションに組み込めるかどうか、見極めるべき投手が多くいる。新外国人に先発転向の岩貞、さらに若手の西純とか、バラエティーに富んだメンバーがそろう。

最初に書いた森木の起用法は? これも岡田=平田ラインでどう決めていくのか。セットアッパーの人選、充実やクローザー候補の湯浅など、ブルペンで見極め、決めていくべきことは多い。

前回、球界に革命を起こしたJFKも、誕生の原点は沖縄のブルペンだったと思い出す。藤川がスピード豊かなストレートを投げまくり、ウィリアムスが切れ味鋭いスライダーを投げ込む。久保田はとにかくタフさをアピール。常に最多の球数を投げ、それでもケロッとしていた。これらをブルペンで見守り、岡田の頭にJFK構築が描かれた。

今年から1軍投手コーチになった安藤、久保田。彼らも宜野座のブルペンで地位を築いた。久保田は先に書いたが、安藤は先発に回り、開幕投手になった。ブルペンの重要性を知るコーチだから、きっと見る目はシビアだと思う。

改めて「野球は投手よ」と岡田はしみじみとつぶやく。今年、守備の強化、そして打撃陣のレベルアップなどの焦点はあるけど、やはり投手陣の強さこそが岡田野球の神髄。だからブルペンに岡田はとどまる。若いトラ番の記者さん、歩数計を岡田に預けてみてくれませんか?(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

左からジェフ・ウィリアムス駐在米スカウト、藤川球児、久保田智之球団編成部プロスカウト(2020年2月10日撮影)
左からジェフ・ウィリアムス駐在米スカウト、藤川球児、久保田智之球団編成部プロスカウト(2020年2月10日撮影)